2010/9/13

番外編:子どもたちを指導するときに知っていただきたいメンタル面での留意点-5

<子どものコミュニケーション能力を伸ばす-その3>
 ジャンクスポーツというテレビ番組があります。いろいろなスポーツ競技で活躍しているアスリートが登場します。司会をしているコメディアンと違って、専門的な演技のトレーニングを受けたわけでもないのに、面白い話ができるアスリートが多いです。オリンピックやサッカーのワールドカップに出場することは、誰もができる体験ではありませんから、面白いネタをいっぱい持っていることは確かです。しかしそれだけなら、ネタ切れを起こしてしまいます。また司会者との軽妙なやり取りができる能力は、特別な体験だけで養われることはないでしょう。アスリートが引退後、解説者や講演で活躍している人もいます。アスリートたちの多くが、なぜ面白い話ができるのでしょうか?彼らはどこで、そのコミュニケーション能力を磨いたのでしょうか?

 私は大学や企業の研究室で働いた体験がありますが、研究室でのコミュニケーション量にくらべ、スポーツ現場(トレーニング&試合)でのコミュニケーション量は圧倒的に多いです。私は、スピードスケート、野球、サッカー、剣道の現場体験があります。剣道は面をかぶりますので、ほかの3つに比べてコミュニケーションの量は落ちますが、スピードスケート、野球、サッカーは、研究室にいる研究員に比べて、ほとんど聴きっぱなし、しゃべりっぱなしの感があります。

 スピードスケートを例にとりましょう。スピードスケートの練習方法の一つにインターバルトレーニングがあります。500メートルを5本滑るインターバルトレーニングの場合、練習開始のときに、コーチから練習メニューの説明があります。500メートルを滑る前に、ならし運転のように軽くスケーティングをします。その間もコーチと練習内容について話し合ったり、選手同士で冗談をいいあったりします。インターバル練習が開始されますと、500メートルをすべっている間は話をしませんが、絶えずコーチからラップタイムが知らされ、それに合わせてスピードを変える作業があります。インターバルですから、休憩が挿入されていますので、ゆっくりと滑りながら、コーチや仲間と会話をします。練習が終わると、DVD映像を観ながら、コーチと対話をします。ここまでの段階だけでも、オフィスで事務仕事をしているビジネスパーソンと比較して、コミュニケーション量が多いと思われます。練習が終わったあとも、トレーナーにマッサージを受けながら、自分の身体の調子を話しますし、マッサージを受けた後の筋肉の状態についても話し合わねばなりません。

 有名選手になると、マスコミの取材をプライベートな時間に受けることも多くなります。野球やサッカーのようなチームスポーツは、複雑なサインプレーがあり、練習中や試合中のコミュニケーション量は、スピードスケートに比べても飛躍的に増えます。野球やサッカーでは、コーチからのサインや指示を読み間違うと、その結果がすぐにプレーに現れますので、絶えずコミュニケーション能力の検定試験を受けているのと同じことになります。私の父親は、第2次世界大戦前に、大阪ガスの人事部長(当時は総務部長の名称だったと記憶しています)をしていて、たくさんの人間を採用し、育成した体験を持っていました。父は、子どもの私に、「社会で成功したかったら、運動クラブに入れ」とよく話してくれました。現在でも、ビジネスパーソンで成功した人のなかで、学生時代、スポーツのクラブに在籍した人が占める割合は高いのではないかと推察しています。スポーツで根性が養われると、考える人もいますが、それよりも、スポーツではコミュニケーション能力が実戦的に養われるので、ビジネスでも成功する確率が高まると、私は考えています。