2012/1/17

ハーバード大学メディカルスクールのコーチ・カンファレンス報告(2)


 コーチングの研究会に、なぜハーバード大学のメディカルスクールやマクリーン病院が絡んでいるか?と疑問に思われる読者もおられるかもしれません。私自身も、研究会に参加する前に、そのことを不思議に思っていました。研究会にマクリーン病院で、日本から勉強にきているお医者さんのMさんと知りあいました。率直にその疑問をMさんにぶつけると、たいへんわかりやすく、そのあたりの事情を説明していただきました。

 医師にもコーチングスキルが必要なのは、まず第一に、医師の卵の研修医を指導するとき、従来の一方通行的な指導ではうまくいかないケースが増えたことがあるとのことでした。若い人たちの指導についてビジネス界は、従来から、この問題で悩んできて、その解決方法の一つとしてコーチング手法が導入されたのですが、現在の医学界も同じ問題に直面していることを知りました。アメリカでもコーチングスキルを習得しようとする医師が増え、今回の研究会でも医師や看護士たちが参加していました。以上のコーチングニーズは、医師と医師との間のコミュニケーションを効果的なものにすることですが、もう一つは、医師と患者の間で、コーチングニーズがあるとMさんから教えていただきました。医師がコーチング手法を使って研修医の能力開発をしている病院として、日本では聖路加病院があります。

 医師と患者の間のコーチング課題については、Edward M. Philip博士とElizabeth Frates博士の2人の医師が講演をしました。”From Medical Expert to Coach Approach”という題名で、たいへん有意義で、わかりやすい講演でした。フィリップ博士が、従来の権威的な姿勢で患者に臨む医師を演じ、エリザベス博士がコーチング手法をつかったアプローチで患者に接する医師を演じましたので、医学には素人の私にもよく理解できました。一番重要なポイントは、治療過程に積極的に患者に参加を求め、患者の治療に対するモチベーションを高め、治癒率を高めることにあります。たとえば糖尿病の患者は、きちんと医師の処方箋にしたがって薬を飲んだり、食事療法を守ろうとするとは限りません。親しくしているお医者さんに聞く機会がありましたが、きちんと処方通りに薬を飲む患者さんは少ないとのことでした。小児アトピーに治療にあたる専門医の話でも、子どもが正しく薬を塗る確率は低く、それがアトピー皮膚炎を治りにくくする要因の一つだとのことです。上司は部下に成果をあげるための効果的な行動を教えても、部下がそれを守ろうとしないビジネス界での現象によく似ています。従来の権威的なアプローチをExpert Approach, 新しいアプローチをCoach Approachと、2人の講演者は名付けていました。
この2つの違いは下表のようにまとめることができます。