2008/9/30
モチベーション(2)
モチベーションは行動を引き起こし、行動を継続したり、方向を変えたりする働きがあります。人間にとってエンジン部分であり、前進、停止、後退の働きをします。生存本能や、衝動もモチベーションの一つですし、情動(ビジネスでは感情と言い換えても差し支えありません)はモチベーションのなかでも、もっとも進化したものです。食欲は本能に近いものであり、お腹が減ると、人間でも動物でも、ひたすら食べ物を求めます。食欲が満たされますと、それ以上食べようという行動はしなくなります。本能は強力で、その欲求を満たすまで人間を行動に追い立てます。
スポーツの世界で、ハングリー精神は、本能に限りなく近く、非常に強力です。オリンピックで、しばしば発展途上にある国の選手が、豊かな国の選手を打ち負かすのも、選手のモチベーションが本能に近いからだと思います。しかし、社会の仕組みが複雑になるにつれて、本能だけで人間が行動すると、個人の欲求のぶつかりあいになり、社会が機能しなくなります。現代社会のなかでも、もっとむ複雑な仕組みを持つのが企業だと思いますが、ビジネスパーソンが食欲と性欲だけで行動すれば、チームプレーができなくなります。スポーツの世界はまだ本能が役立つ場合がありますので、「長嶋選手は動物的な勘があった」と言えば、長嶋選手の名誉を傷つけることにはなりません。しかし、あなたの会社の社長にむかって、「社長は動物的な勘で経営をやっていますね」と会議の席上発言する人はあまりいないのではないでしょうか。社会が発展するにしたがって、私たちはより洗練されたモチベーション、つまり情動が必要になりました。
本能には人間の知能が介在する余地がありません。お腹が空いたとき、どのように考えても、どんなご馳走を空想をしても、空腹感は消えません。本能は融通がまったく効かないのです。繁華街を歩いていて、突然目の前に刃物を持った人間が現れたら、恐怖に身がすくんでしまいます。この反応は自然ですが、人間が自由に選択することはできません。激しく変化する環境を生き延びるたには、もっと自由に操作できるモチベーションや情報処理機能があったほうが都合がよいはずです。それが情動と認知(注1)です。情動は、本能に近いものと、認知に近いものにわけることができます。情動は本能と結びつくと強力ですが、自由さは乏しくなります。性的な欲望を伴った恋愛感情(romantic love)はその好例です。歌劇「カルメン」のドン・フォセはカルメンに強烈な性的魅力に引きづられ、最後は破滅します。おそらく頭ではカルメンは悪女とわかっていても、カルメンに魅力にとらわれてしまったのでしょう。認知に近い情動は、認知ほど自由ではありませんが、認知をつかってある程度変えることができます。ビジネスで大きな失敗をしてすごく落ち込んでも、その失敗を糧にしようと納得できたら、失望や絶望の気持ちが和らぎ、希望やチャレンジの気持ちが芽生えます。ビジネス界で有効なのは、認知よりの情動です。つまり評価や視点を変えることで変えることができるモチベーションがビジネスでは役立ちます。
注1:cognition :記憶したり、新しい概念を生み出したり、推論するなどの、いろいろな思考のこと。