2011/4/27

創造性と人間関係

【3:1の法則をビジネスで活用する―組織編(7)】
参考文献:
・Szabolcs Keri“Solitary Minds and Social Capital: Latent Inhibition, General Intellectual Functions and Social Network SizePredict Creative Achievements”
・佐々木俊尚「キュレーションの時代」ちくま新書

 画家のゴッホは精神病院に入院し、そこで短い生涯を終えました。彼の病気は統合失調症だったという説が有力です。統合失調症は、別名天才の病と言われるように、その患者の中に、芸術や学問で天才的な業績を残した人がいます。佐々木俊尚「キュレーションの時代」で紹介されているアロイーズ・コルバスも統合失調症だったとされています。

 心理学者や精神医学者には、天才と精神病の関係を研究テーマにする人たちがいます。そのうちの一人で、ハンガリーの心理学者Szabolcs Keriは最近面白い研究を発表しています。Keri(私はハンガリー語を知りませんので、発音の仕方がわかりませんので、アルファベット表記にしています)は、ハンガリーで芸術や料理などの領域で、創造性を発揮した人に協力をしてもらい、創造性の高い人はどのような心理的、社会的特徴があるのかを調査しました。調査に協力した人たちは、いずれも統合失調症をはじめとするメンタルの病気にかかっている人はいません。しかし、健常者のなかには統合失調症で現れる性格的な傾向を持っている人もいますので、そのような傾向と創造性に関連があるのかが調査されました。

 社会的な特徴に関しては、調査に協力している人たちの付き合いの広さや深さと創造性の関連が調査対象になりました。調査結果で、創造性と一番関係があったのが、社会的なネットワークで、統合失調症的な性格とは関連は、それに比べれば弱かったのです。さらに面白いことには、創造性に関係が深かったのは、ソーシャルネットワークの広さではなく、付き合いの親密さ(愛する家族や、信頼できる親友などで構成された小さなグループ)でした。人間の心理的な特性で、創造性と関係があったのはIQの高さでした。(注1)

 私は研究所の所長をした経験があり、そのときにも、研究所はあまり大きな規模のものよりも、お互いが信頼し合う小規模なもののほうがよいと直観的に感じていましたので、Keriの研究結果は納得できます。ポジティブな感情とネガティブな感情を3:1に維持するために、組織メンバーの信頼が必須で、その信頼を構築するためにも、広いソーシャル・ネットワークよりも、信頼でき、お互いの温かみや、感情や考えに息遣いのようなものが感じとれるソーシャルネットワークのほうが適していると思います。

注1.Keriは別の研究で、統合失調症や双極性うつ病の発症と関連があるとされているneuregulin 1,が、創造性の高い人に多いという研究をしていますので、こころの病気と創造性が無関係と考えているわけではないようです。