2013/5/27ソチで感じたこと(4)
ソチに滞在して強烈に感じたことは、「不動産屋が、儲けるために、街や自然をめちゃくちゃにしている」ことでした。16世紀にイギリスで羊毛工業が勃興したとき、利益の高い羊の毛を求めて、貧しい農民を農地から追い出して、羊を飼育する牧場に変えることを、地主たちは行いました。その様子を、当時の偉大な思想家トマス・モアは「羊が人間を食っている」と表現しました。モアの表現を借りて言えば、「不動産屋が人間を食っている」ということになるでしょうか?20世紀のドイツを代表する社会学者マックス・ウェーバーは、資本主義を生みだした要因は、プロテスタントの「禁欲と勤勉」から成る高い倫理観であると主張しました。ソ連や中国のような社会主義国家であった国が、突然、資本主義国家に生まれ変わった時、資本主義を支える倫理観を育て上げる時間がなく、お金儲けだけを資本家たちが露骨に追い求める結果、資本主義が暴走してしまうリスクがあると思います。高度成長期に、日本でも公害が多発し、たくさんの人々が被害を受けました。しかし、いくつかの企業は裁判によって裁かれ、賠償金の支払いをすることになりました。そこに至るまでの道のりは決して平たんなものではなかったのですが、不完全ながらも、社会的正義を守ろうとする社会の機能が働きました。ロシアや中国の企業が公害問題を起こした時、果たして公正な裁判によって、被害者が救済されることはありうるのでしょうか。
ここまでは、ソチで感じた現代ロシアのマイナスの部分を書きましたが、ここからはプラスの部分です。「あなたはロシアに住みたいか?」と言われれば、私の答えは「イエス」です。理由は、私が出会ったロシア人の多くが、日本人にもよく理解できる「もてなしの心」を持っていたからです。ソチ国際空港には夜の11時50分ころ到着する予定でした。ボランティアの人たちが空港で待機して、私をホテルまで送ってくれる予定でした。モスクワが大吹雪で、飛行機が大幅に遅れ、翌朝の10時到着したら、ちゃんと私を待ってくれていました。小澤コーチの場合は、11時50分到着の予定が、翌朝の3時になりましたが、同じようにボランティアの人が小澤コーチを空港で待っていました。ソチ滞在中、3食はホテルのレストランで食べました。レストランのマネジャーは私の顔を覚えてくれて、丁寧に日本式のおじぎを毎回してくれました。ソチ市内の観光に一人で出かけた時、私はバスにカメラや現金の入ったカバンを置き忘れました。バスが去ってしまってから気が付き、あわててホテルに電話をして、カバンを探してほしいと頼みました。結局カバンは見つかりませんでした。しかし、ホテルのマネジャーから、「カバンをなくしてがっかりしておわれるでしょう。どうか元気になってください」とチョコレートとシャンパンのプレゼントをもらいました。ソチの市街で道を尋ねても、英語ができる人がほとんどいません。みんなは、ほんとうに申し訳なさおうな顔つきで、何かロシア語で言っていました。パリだったら、対応はもっと冷たいです。
昔から、ロシアは国家としては最悪だが、ロシア人一人ひとりは最高だ、と言われてきました。私も何となくわかる気がします。ごくわずかな滞在で、ほんとうのことはよくわかっていないかもしれませんが、ロシアだったら、私はうまく人間関係が作れる気がします。パリではまったく自信がありません。