2012/2/12

ハーバード大学メディカルスクールのコーチ・カンファレンス報告(4)


 <Richard E. Boyatzis博士の講演>

 不覚にも、今回のカンファレンスに出席するまでは、Boyatzis博士をまったく知りませんでした。会場で知り合ったトロントに住む大学教授が、「この人の話は面白いからぜひ聴きなさい」と勧めてくれました。はたして、講演は素晴らしかったです。

 Boyatzis博士は、もともとは理系の勉強をしていた人で、きちんとした研究をもとに理論を構成していて、たいへん納得ができました。とくに脳神経科学で開発された手法をつかって、コーチング成果を測定しようとしている試みは興味深かったです。たとえば、ポジティブなイメージを人が抱くと、脳の特定個所が活性化するなどの研究成果を発表しました。お茶の水女子大の榊原洋一教授が指摘するように、脳神経科学はまだまだ未発達なところが多く、安易に、脳が活性化したら、その箇所が強化され、知能がすすむという類の、短絡的な考察は危険だと思います。(注1)現在の脳科学の限界をふまえつつ、それを最大限に活用して、知的探求をする姿勢は高く評価してよいと思います。

 私自身、コーチングに関する最大の問題は、コーチングの効果とその品質の測定だと考えています。コーチングは、集合研修に比較して、その教育効果ははるかに大きいという手ごたえは持っていますが、そのことを科学的に証明していません。コーチングを受けた人に効果を評価してもらっても、テレビCMではありませんが、単なる「個人の感想」どまりです。

 Boyatzis博士は、コーチングが大きな効果を上げるためには、コーチが思いやりをもち、コーチングを受ける人のこころのなかに、ポジティブな情動の火をつけることが必要だと考えています。とくにコーチングのプロセスで、いつも、ポジティブな情動とネガティブな情動が3対1になるように工夫をするように主張しています。ポジティブ心理学で、最近知られるようになった3対1の法則が、コーチングでも用いられるようになっています。


注1. 榊原洋一「『脳科学』の壁」 講談社α新書 p110
しかし、前に述べたシナリオの最大の論理の飛躍は、ニューロンの活動が活発になり、そのためにそのニューロンがある部位の血流が増えると、そのニューロンの機能が向上する、という考え方なのだ。