2012/6/13「ホメ渡部 ホメる技術7」について(2)


 渡部建さんは、この本のなかで、女性の持ち物をホメるとき、その人が持ち物を購入するまでの物語を想像してホメると言っていますが、これもすばらしいです。私たち一人一人、自分の創り出す物語の主人公だという気持がこころのどこかにあります。ショッピングには人それぞれの物語があります。その物語を的確に想像し、ホメてもらえると、こころの奥底からうれしくなるのが人情です。

 私自身の反省として、カウンセラーの職業病なのかもしれませんが、クライエントの症状の原因を家庭、とくに親のせいにする傾向があります。クライエントのお話を聴いていると、親の影響が大きいことがよくわかるからでしょう。クライエントの病的な症状の原因がすべて家庭環境や親にあるとするのは、正しいことではないことは頭でわかっているのですが、親のせいにすると説明がつきやすいのです。ここにカウンセラーとしての落とし穴があるのではないか、と渡部建さんの「物語を想像してホメる」の一節に出会ってから考えるようになりました。

 説明が、まがりなりにできると、私はほっとしますし、クライエントも「原因がよくわかってすっきりしました」とお礼を言われるのですが、双方にとって「そこで終わり。だからどうしたの?」という感じなのです。大切なことは、クライエントが、自分の物語の主人公になって、自分の言動に責任をもって生きて行くことのはずです。原因を追究して、それに満足するのではなく、クライエントが、おぼつかない足取りでも、親の物語のわき役ではなく、自分の物語の主人公として歩み出した時、もっとホメたほうがよいと思うようになりました。原因よりも、クライエントが織りなす物語のほうが重要だと、渡部さんから学ぶことができました。

 コーチングだと、コーチイ(コーチングを受ける人)が物語を紡ぎだすことの重要性がより鮮明に出てきます。ビジネスパーソンが、スランプに落ち込んでいるとき、例外がないといってよいくらい、自分の強みを忘れています。自分の強みを忘れたときは、自分の物語の主人公の座から滑り落ちるときなのです。一寸法師が、なぜ物語の主人公であり得るのかを考えてみましょう。もし、一寸法師が、自分の身体の小さなことにくよくよして、家に閉じこもっていたとしたら、一寸法師の物語は成立しません。自分の身体の小さなことを武器に、鬼をやっつけるから、人々に語り継がれる物語になったのではないでしょうか?

 コーチとしての長年の経験から、人が人生のここぞという場面で成功しようと思えば、自分の強みで戦うことがベストだと私は信じています。自分の強みをしっかりとつかみ、毎日、毎日を、自分の物語の主人公として生きていくことが大切だと思います。コーチは、コーチイが自分の物語の主人公であり続けるためのサポートをする仕事です。コーチはコーチイの物語をもっとホメたほうがよいのです。