2013/3/4勝つための組織づくり(1)
勝つための組織作りのコツは「コミュニケーションの質と量を改善すること」だと思います。私は情動心理学の一学徒ですから、あくまで「情動心理学の視点から言えば」という条件が付きます。
コーチとして、企業やスポーツのチームに関わる時、企業やチームのトップと徹底的に話し合います。トップが、誠実かどうかが、最初の関門です。言動に裏表のない人が企業トップやチームの監督であれば、「勝つための組織づくり」は可能と判断します。効果的なコミュニケーションとは、IBMの中興の祖ルイス・ガスナーが行っているように、「率直で、正直」であることが必要です。組織のトップが二枚舌を使うようだと、「コミュニケーションの質」が良くなることはない、と断言できます。
なぜ組織のトップがうそをつくと、組織全体もうそをつくようになるのでしょうか。「『感じが悪い人』はなぜ感じが悪いのか」で書いたように、一度人間はうそをつくと、ばれないように嘘をつき続けなければならなくなります。「嘘の上塗り」現象が起きます。個人でも、組織でも同じです。歴史的に有名な例が、第二次世界大戦のときの、「大本営発表」(日本の戦争を指導していた中枢機関を大本営と呼んでいました)です。ミッドウェイ海戦で主力空母を4隻失ったにも関わらず、その事実を隠したため、沈んだ空母をまだ健在のように報道せざるを得なくなり、嘘がエスカレートしていきました。私が子どものころは、日本の敗戦直後でしたので、「大本営発表」はうそつきの代名詞として使われていました。「大本営発表」も、当時の戦争指導者が国民の戦意喪失を恐れて、敗北をひた隠しにすることを決定した結果です。組織の下っ端が勝手に嘘をつけば、規則に照らし合わせて罰することで処理できますが、組織のトップが嘘をつく方針をかためて、確信犯的に嘘を突き始めると、そのことを暴露するには相当の覚悟が必要です。たいていは、「命令されたのだから仕方がない」と自分に言い聞かせて、嘘の片棒を担ぐことになります。
コミュニケーションの質とは何かという問題は、考え始めるとなかなか難しい問題です。しかし、正直であるという評価基準ははずせないと確信しています。嘘も方便という言葉もありますが、勝つための組織を作ろうと思えば、「嘘は方便」はだめです。「八重の桜」で有名になった会津藩の教えのとおり、「ならぬことはならぬものです」。嘘が組織に蔓延すると、組織メンバーが「現実」を認識できなくなります。現実がわからないと、現実に起きている問題がわからなくなり、その解決方法も見つからず、どんどん問題は大きくなっていきます。
嘘をつくつもりはなかったのに、結果的には嘘をつくことになることは、人間社会にはしばしば起きます。一番良く起きるケースは、現実の認識を間違えたり、予測を間違えるときでしょう。人間の知的能力は、間違いをゼロにすることができないどころか、間違いを起こしやすい仕組みを持っています。何か物事を判断するとき、仮説を複数たて、それぞれの仮説でシミュレーションをしたうえで、はっきりと「仮説である」ことと、複数の仮説から選んだことを意識しておく必要があります。組織のメンバーには、仮説を複数たてて、仮説検証する習慣を身につけてもらわねばなりません。最近、流行の「自分で考えることができる人材を育てる」ことは、言葉を変えれば、「自分で仮説をたて、行動で検証することの繰り返しができる人材を育てる」ことだと思います。