2009/6/22

モチベーション(17)

モチベーション(17)
【The broaden-and-build theory;ポジティブなふりをすることは身体に悪い】
参考文献: Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
 喜び、悲しみ、怒りなどの情動は表情に現れます。表情を観察して、どんな情動を感じているのかを推定する心理学的手法の一つに表情分析があります。表情分析の研究結果からいいますと、人間の笑顔はほんとうの気持ちを隠すカムフラージュにしばしば使われます。「顔で笑って、心で泣いている」ことのほうが、「顔で泣いて、心で笑っている」よりも難しいでしょう。笑顔をしてごらんと言われれば、たいていの人はできますが、泣き顔をしてごらんと言われると、俳優の訓練を受けた人以外では難しいです。私たちは怒り、不平、嫌悪、恥じらいなどの情動を隠そうとするとき笑顔を使うのですが、いつわりの笑顔は人間の生理的な状態に、ほんものの笑顔と同じ影響を与えているのでしょうか。

 アメリカ合衆国ノースカロナイナ州にありますデューク大学の医療センターで、心臓に持病がある人と、ごまかすための笑顔の関係を調べるための実験が行われました。怒りは心臓の持病がある人には好ましい情動ではありません。興奮レベルが高すぎると、心臓の血管に大きな負担をかけます。実験でインタビューをする人が、心臓に持病を持つ人にいろいろな質問をします。質問に答えながらインタビューをうける人はさまざまな表情をします。実験者はその表情を分析し、どのような情動を感じているかを記録します。同時に心臓の動きをモニタリンングする装置を被検者に取り付けておきます。怒ると、心臓の血管がせばまり、血流が悪くなる現象が見られたというのは、実験前から予測されていたのですが、興味深いのは、自分の怒りや嫌悪などをかくすために笑ったときも、心臓の血流が悪くなったことです。(表情分析では、ほんとうの笑いと偽りの笑いと区別することができます)

 EI(Emotional Intelligence)の研究者たちは、情動を抑圧することと免疫力の関係を研究しました。乳がんにかかった患者で、情動を表現する人は、情動を押し殺す人よりも、免疫力が高く、生存率が高いという結果を得ました。ポジティブなふりをするよりも、自分に正直なほうが健康にはよいということになります。ところかまわず、情動を表現すると、人間関係が悪化したりして、それがストレスの原因になることもありますので、適切な表現スキルを習得したほうがよいのは当然です。

 アスリートは、試合中にどんな不利な状況になっても、平気なふりをしたり、元気いっぱいのふりができるようにトレーニングを受けます。俳優が演技をしているときは、ほんとうの自分とは違う人間になりきるトレーニングを受けます。しかし、特定の状況下で、特定の役割を、特定の時間内、「ふりをする」だけです。日常生活で「ふりをし続ける」と、大きなストレスを受けて、メンタル的におかしくなります。マリリン・モンローは、セックス・シンボルとしての役割を演じることを私生活でも強いられて、生涯苦しみ続けました。私たちは自然に無理なく生きるほうが、メンタル的には好ましいでしょう。悲しいときは、心から悲しく感じ、楽しいときは心から楽しみ、感じている情動をのびのび表現したいものです。