2009/9/11
「カミナリ親父が姿を消した日本」
【3:1の法則をビジネスで活用する―個人編(2)】
参考文献: Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
Barbara L. Fredrickson & Marcial F. Losada “ Positive Affect and the Complex Dynamics of Human Flourishing”
トルストイの「アンナ・カレーニナ」の冒頭に「幸福な家庭は皆同じように似ているが、不幸な家庭はそれぞれにその不幸の様を異にしているものだ」という有名な一節があります。トルストイ流に表現すれば、ポジティブな情動を感じやすい人は似通ったところがありますが、ネガティブな情動を感じやすい人はかなり違っていて、それぞれ個性的です。
ポジティブな情動としては、「喜び」「楽しい」「わくわく」「面白い」「大好き」「愛する」などがありますが、そのような情動を感じている人は、笑顔が多く、ユーモラスで、親切で、明るく活動的など共通する特徴をいくつか挙げることができます。「怒り」「悲しみ」「軽蔑」「嫌悪」「おそれ」「ねたみ」などは、ネガティブな情動に分類されるでしょう。しかし「怒り」を感じやすい人と「悲しみ」を感じやすい人とでは、行動や態度などはまったく違います。シェイクスピアの「オテロ」の主人公オテロは「怒り」と「嫉妬」を感じやすい人であり、オテロを陥れるイアーゴーは「ねたみ」を感じやすい人として描かれています。
私はネガティブな情動を3つの系にわけ、それぞれの系ごとに「3:1の出来事主義」の処方箋を変えています。ビジネスやスポーツの世界では、情動は
①不安―怒り系
②悲しみ―落胆系
③軽蔑―嫌悪系
の3つの系で、ネガティブな情動の対処方法を考えると便利です。
ビジネスの現場で、もっとも大きな問題を引き起こすのが、不安―怒り系の情動を感じやすい人だと思います。不安と怒りがなぜセットになっているのだろうと不思議に感じる人もいるかもしれません。怒りは不安を打ち消す働きがあるからです。人間は不安になりますと、気持ちの余裕がだんだんとなくなり、ちょっとしたことに神経質に反応をしたり、いらいらしたりします。しかし怒りを爆発させますと、不思議なくらい落ち着いたり、勇気がわいてきた経験をした人が多いと思います。人間が進化してきた過程を振り返れば、危険な動物や敵が近づいてきたとき、威嚇して、その危険なものを追い払うために怒りを表現するようになったと考えられます。危険なものが接近してくれば、不安も当然大きくなりますので、不安と怒りは結び付きやすかったのではないでしょうか。あなたの会社ですぐに怒る人がいたら、その人のことを思い出してほしいのですが、よく怒るのは不安を人一倍感じやすいからだという目で、その人の怒った場面を再現していただくと、「ああ、なるほど」と腑に落ちることはありませんか。
しかしなぜ怒りがビジネスの現場で大きな問題を引き起こすのでしょうか。私は日本からカミナリ親父が姿を消したため、日本人は怒りに対する耐性が弱くなったからではないかと思います。カミナリ親父という言葉も死語になってしまいました。40歳以下の人で、恐ろしい父親をもった人は少なくなっていると思います。私の父親は、私の兄をロープでくくりつけて、井戸につるしたこともあるくらい気性の激しい人でしたが、私の父は例外的な父親ではありませんでした。家庭で父親が怒り狂っていたのですから、古い世代の人は怒りに対して免疫力がついています。やさしくものわかりのよい父親が多くなり、怒りに対して耐性のない人たちが多くなったにもかかわらず、社会の変化が激しく、不安感が増大し、ちょっとしたことでも切れてしまって、怒りを暴発させる人が増えたため、社会の広い範囲でさまざまな問題を引き起こしているという仮説を私は立てています。
そうだからといって、もう一度カミナリ親父が復活したほうがよいとは思っていません。社会は進化しています。後戻りはできないでしょう。そこで、私は「3:1の出来事主義」を提唱しているのです。