2012/9/19メンタルコーチと保護者との関わり方(2)
保護者との関わり方とも重なり合う部分があるのですが、OBとの関わり方もメンタルコーチとして気を遣わなくてはならないところです。伝統あるクラブであれば、保護者のなかで発言力のある人は、そのクラブのOB(出身者)であるケースが多いです。保護者会の会長を務める人はOBが多いように見受けられます。学校側としても、保護者会とOB会をうまく運営してほしいというねらいがあるのだと思います。
チーム強化のためには、監督はかなり大胆な手を打たねばなりませんたとえば、練習方法、選手の起用法、作戦など、現代のスポーツ科学の知見や試合の反省結果を取り入れて、競争相手よりも速くチームを改善していきます。ときにはコーチの入れ替えの決断にも迫られます。OBたちは卒業年度によって反応が違います。若いOBたちは、スポーツ界の最近の変化を体験していますので、前向きな改革にはおおむね賛成ですが、卒業年度がさかのぼるにつれて、改革に対する抵抗が大きくなります。
私自身はスポーツに対する考え方は、「水飲みアスリート」世代と「水禁止アスリート世代」の2つに大別できるのではないかと思っています。私が高校と大学で剣道をしていたとき、剣道のみならず、どのスポーツでも、練習や試合途中に水を飲むことは禁止されていました。時代がかわり、練習途中や試合途中の水分補給の重要性が認められるようになりました。「水飲みアスリート」世代の登場です。今の年齢で40歳前後がその世代交代の境目ではないでしょうか?旧世代と新世代では、水分補給の考え方だけではなく、さまざまな面で違いがあります。「水禁止アスリート世代」だと、メンタルを精神力と表現する人が多いです。「最近の若い選手は精神力が不足している」というような言い方をします。反対に、「水飲みアスリート」は、「最近の若い選手はメンタルが弱いですね」という言い方です。
最近の監督やコーチは「水飲みアスリート」世代ですから、「水禁止アスリート世代」のOBとはかなり考え方が違ってきます。たとえば。「水禁止アスリート世代」は、足腰を鍛えるために、走る重要性を強調します。それに対して「水飲みアスリート」は「体幹筋肉の増強」という表現で、走ることだけではなく、さまざまな体幹トレーニングを組み合わせます。「水禁止アスリート世代」からは、走り込みが少ないのではないか、という批判がしばしば出ます。
私自身は「水禁止アスリート世代」ですが、JOCの強化スタッフをしていますので、最新のスポーツ科学の知見に触れる機会が多く、心情的には「水飲みアスリート世代」に属しています。したがって、「水禁止アスリート世代」のOBと接するときは、ほんとうに気を遣います。時間をかけ、相手のプライドを傷つけないように、少しずつ説得していかねばなりません。現代日本のスポーツ指導者の大変さは、青少年のスポーツの主体が学校のクラブであり、選手との世代ギャップを埋めるだけでなく、高齢のOBとの世代ギャップも埋めなければならないことです。OBは寄付金を出してくれるスポンサーなので、無視するわけにもいきません。指導者にとって、「水禁止アスリート世代」のOBたちと、誠実な対話を積み重ねていくしか道はないと思います。
私自身は高校と大学の剣道部のOBです。OBとしての基本ポリシーは、「金は出すが、口を出さない」です。