2012/3/28

アメリカ合衆国におけるキャリア開発の視察団に参加して(1)

 <トゥルーグリット>

 2012年1月8日から約1週間、アメリカ合衆国におけるキャリア開発の現状を調査する目的で、日本生産性本部から視察団が派遣されました。アーカンソー大学、ジェトロ、訪問企業の心のこもった協力をいただき、とても有意義な体験をすることができました。視察団が観たキャリア開発の現状については、日本生産性本部からの報告書が近い将来、発刊されますので、ご覧ください。ここでは、視察団の番外編として、私自身が感じたことを書きます。

 昔、西部劇の大スターであるジョン・ウェインが主演して、アカデミー賞の主演男優賞をとった「勇気ある追跡」という映画をご記憶の方は多いでしょう。若い人たちはコーエン兄弟が再映画化し、ジェフ・ブリッジスが主演した「トゥルーグリット」のほうがピンとくるかもしれません。最初の訪問先が、「トゥルーグリット」の舞台となったフォートスミスでした。私は不覚にも、フォートスミスが「トゥルーグリット」と関係があるとはまったく知りませんでした。ダラスでアメリカの国内便の小さな飛行機に乗り換えて、フォートスミス空港に到着した最初の印象は、「田舎やなぁ」でした。どこまでも広がる平野の真ん中に、2階建ての空港の建物がぽつんと1軒あるだけです。その建物の内部は、頑丈な板張りで、動物のはく製のようなものが飾ってあって、まるで西部開拓時代を思わせます。飛行機に預けた荷物を待つ間、待合室をうろうろしていますと、色あせた写真が飾ってあります。そのなかに、長い口髭を生やして、ライフルやピストルを持っている5人のガンマン風の男たちが映っている写真がありました。



西部劇の大ファンである私は興味津々で、写真の解説を読みますと、5人の男たちは連邦保安官なのです。『一体、なんで西部開拓時代の連邦保安官の写真があるのだろう』と不思議に思って、視察団のコーディネーター役の人に質問をしたら、「パーカー判事のもとで働いていた連邦保安官で、彼らはネイティブインディアンの地域に逃げん込んだ犯罪人を捕まえて、フォートスミスに連行してきた」から始まり、フォートスミスの歴史を詳しく教えてもらいました。西部開拓の歴史で、フォートスミスがアメリカ連邦政府の力が及ぶ最終地点で、そこから西はネイティブ・アメリカンの土地という時代があったそうです。犯罪者は、フォートワースから西側の広大な地域に逃げこみ、逮捕を逃れようとしました。その犯人を追いかけたのが連邦保安官で、連行された犯人を裁くのが、「首つりパーカー」と悪人から恐れられたパーカー判事でした。「勇気ある追跡」の映画を観た時、パーカー判事が架空の人間と思っていましたので、彼が実在の人物で、しかもアメリカの歴史上、有名な人と知ってびっくりしました。

 人材採用を考える上で、とてもよいヒントになる場面が「トゥルーグリット」にあります。「トゥルーグリット」は、父親を殺された少女が、連邦保安官のコグバーンを雇って、かたき討ちをするまでの物語です。少女は父親の遺体を引き取るためにフォートワースにやってきます。そこでパーカー判事のもとで働く複数の連邦保安官の評判を地元の人に聞きます。「評判は一番悪いが、トゥルーグリッド(映画では「ガッツがある」と訳されていた記憶があります)のあるのがコグバーンだ」と聞き、コグバーンを雇うことを決めます。親を殺した男は、凶悪な強盗一味に加わっていて、かたき討ちは困難を極めると少女は予測し、目的を達成するために必要な資質である「トゥルーグリッド」だけに絞って人材採用を決めるのです。日本の企業は、一般論ですが、人材要件の絞り込みが不足しているように思えます。「ポジティブで、創造性に富み、チームプレーができ、頭脳明晰な」などと、あまりにたくさんの人材要件をあげすぎて、結果的には平均的秀才を採用しているのではないでしょうか。