2017/7/8
スルーカ(りょく)をを心理学から考察する
スルー力のある人は状況に応じて、周囲の人たちの意向に応じて柔軟に対応できる人と定義すれば、 スルー力はパーソナリティ心理学で言われるセルフモニタリング(人からどう見られているかを気にして、状況に合わせて振る舞うこと)にとても近い概念になります。一方で、細かなことに拘泥しない性格の持ち主と定義すれば、ビッグ5の「情緒安定性」という項目のスコアが高い人たちということになります。
私がインタビューした、高い成果をあげている女性でスルー力を発揮した人たちは、バックアップ力も合わせ持っていました。例えば、お茶汲みを女性にやらせている職場で働くときは黙ってお茶汲みをするけれど、そのこと自体を改めるべきことと頭の片隅に置いて(これがバックアップ力です)「物分かりの良い上司に変わったら改善を提案する」と話していました。優秀な女性は、唯々諾々と不条理な暗黙のルールに従っているわけではありません。改善の機会がくるまでバックアップしています。スルー力とバックアップ力を使い分けているところから考えて、スルー力とバックアップ力をセットにすれば、セルフモニタリングに近い概念になります。
セルフモニタリングは、相手や状況に合わせて、自分の対応の仕方をかえるため、調子の良い人とか、不誠実と思われるリスクがあります。反対に、セルフモニタリングの低い人は自分の態度や考えをかえませんので、時には融通が効かない人とか、空気の読めない人と思われるリスクを抱えつつ、一方では誠実な人とか、裏表のない人と評価されることがあります。しかし、スルー力とバックアップ力を持つ人は、私がインタビューをした時の印象で、調子が良い人とか、不誠実などの印象は皆無でした。それゆえ、セルフモニタリングとスルー力+バックアップ力は同じものではないと思われます。
おそらく、スルー力+バックアップ力を発揮する人は、仕事の成果を挙げることに焦点をピタリと合わせているので、状況に応じてカメレオンのように変身する印象を人に与えないのだと思います。セルフモニタリングの高い人は、状況に応じることが目標になっていますが、スルー力+バックアップ力の高い人は、成果を挙げることを目標に置いています。仕事の成果を挙げるため、やり過ごせることはサラリとやり過ごし、改善にさほどエネルギーをかけずに済む時は、おかしいと思ったことを改善するというのは、パーソナリティではなく、コンピテンシーの1つ、あるいは社会的スキルの1つかもしれません。