2011/8/16
創造性開発の難しさ(1)
心理学の歴史を振り返ると、認知心理学が、ワトソンによる行動主義心理学が隆盛を極めた一時期を除き、常に重要な位置を占めてきました。創造的に物事を考えることは、人間の認知活動の一つですから、認知心理学の分野から、創造性開発の優れた研究者が生まれましたし、現在もおもしろい研究がどんどん発表されています。かれらの業績を否定する意図はありませんが、彼らがあまり注目していない問題について考えてみたいと思います。
1週間ほど前、創造的に考える方法を提唱している本を読む機会がありました。主な主張点は2つあります。一人で考えるよりも、複数の人たちが知恵を出し合ったほうが、創造性の高い思考ができるというのが主張の一つです。もう一つは楽しく考えることです。
この2点は目新しい主張ではありません。それどころか、私が社会人になったころ(今から40年以上前ですが)、企業教育では、創造性開発が非常に盛んでした。一人で考えるよりも、楽しく、複数の人が知恵を出し合ったほうが、創造的なものが生まれるからという理由で、KJ法やブレーンストーミング法を教えられ、相手の意見を批判しないルールなどが必要なことも知りました。先日読んだ本は、最新の認知心理学の成果がうまく取り込まれていて、コンピューターグラフィックの技法など、さまざまに斬新なツールが駆使されていますが、複数の知恵を出しあうことと、楽しく考えるという2点は40年前と同じでした。
40年以上前と同じだから古臭いと言いたいのではありません。1000年以上前の考えでも、正しいものは正しいと思います。私が問題にしたいことは、現代日本企業において、この2点を実現している企業がたいへん少ないことです。40年以上にわたって、創造性を発揮させるのに、もっともよい方法だと言われ続けてきたのにも関わらず、企業内になぜ定着していないのでしょうか?モチベーション(行動や思考を引き起こす心の働き)の視点でいえば、企業として、創造的に考えることを促進したり、創造性を開発する努力をすることに、モチベーションを持てなかったと言えます。創造的に考えることと、創造性を開発することは、コンセプト(ひとかたまりの、まとまった考え)としては別物であるはずですが、創造性を開発するためには、創造的に考えるが必要だと考える人が多いようですので、この文章では、創造的に考える方法に焦点をあてて考えていきます。
まず、複数の人が知恵を出し合ったほうが、より創造的に考えることができるという意見はどれくらいの正しさがあるのでしょうか。複数の人間による共同思考のほうが、一人で考えるよりも、ほんとうに創造的に考えられるのでしょうか。