2016/4/4 タフなメンタルの作り方
メンタルコーチの仕事をしているせいで、「強いメンタルを作るにはどうすればいいのか」という質問をよく受けます。ヒトのメンタルは強くなれないけれど、賢くなれます、と、以前は、答えるようにしていました。そう答えると、当然のことながら、「メンタルが賢いとは、どういうことか?」と、さらに質問されます。メンタルが賢いとは、どのようなことかを説明するためには、ヒトの知能の働き、とりわけEmotional Intelligenceから体系的に説明する必要があり、解説がやたらと長くなります。一般的には長話は喜ばれませんので、今は、「賢いメンタル」という表現を避けて、「タフな」という、曖昧な形容詞をつけています。
タフなメンタルを作るためには、3つの基本的な考え方を身につける必要があります。
考え方 1. 自分がコントロールできることと、できないことを分けること。コントロールできないことは、きれいサッパリあきらめて、コントロールできることに集中すること。
コントロールできないものとは、自分の思い通りにならないものです。平安時代、白川法皇は自分の思い通りにならないものとして、鴨川の水、サイコロの目、僧兵を、三大不如意としてあげました。今風に言い換えるならば、鴨川の水は「自然現象と時間の流れ」、サイコロの目は「結果」(スポーツでは勝ち負け)、僧兵は「他人」ということになるでしょう。それ以外にも、人間の思い通りにならないものはたくさんあります。運とか、運命は代表例です。「ラッキーを呼び寄せる~」などの本を見かけることがありますが、私個人はその類のことは信じない人間です。
考え方 2. どのような状況に直面しようとも、次にどうすれば目標に近づけるかを考える習慣を身につけること。
映画「ブリッジ オブ スパイ」で、アメリカに捕まったロシアのスパイが、「あなたはこのような状況になって不安を感じないのか」と、トムハンクス演じるアメリカの弁護士にきかれ、「それがどんな役に立つのだ」と答えるシーンがありました。日本の森田療法の目的本位と同じ考え方です。不安は効果的にリスクに備えるために役立つ感情であって、怯えてばかりだと不安の有効活用ができなくなります。全くの余談ですが、ロシアのスパイ役を演じたイギリスの名優マーク・ライランスの演技は素晴らしかったです。彼はこの映画の演技で、アカデミー助演男優賞を獲得しました。
考え方 3. 論理的にものごとを考える習慣を身につけること。
論理的に考えるとはどのようなことかを例をあげて説明しましょう。スポーツも、ビジネスでも、何か失敗をすると、「最悪だ」と考える人がいます。それに対して、「人生に最悪はない」とアメリカの心理治療家のアルバート・エリスは言っています。最悪は、英語で言えば、the worstで最上級です。最上級はすべてのものを比較したうえで、最悪と評価したという意味です。 私たちは、生きている限り、次々を新しい体験をしていきますので、この世のすべての出来事を比較検討できません。私たちが「これは最悪の状況だ」と考えた時、本当に言いたいことは、「なぜ自分だけがこんなひどい目にあわなければいけないのか」という腹立たしい感情や、「こんな悪い状況だから、失敗しても自分の責任ではない」という言い訳の心理が働いていると思われます。まさしく、このような心理状態になったとき、「ブリッジ オブ スパイ」の名セリフである「それがどんな役に立つのか」と自分に問いかける時が来ているのでしょう。「最悪の状況」と考える場合と、「予想したよりもよくない結果になった」と考える場合とで、両方の場合とも気持ちは落ち込むでしょうが、立ち直りは後者のほうが早いのではないでしょうか。
人生に最悪はないのと同様に、最善や最良もないと、私は考えています。最善と考えれば、進歩はありません。本当のプロは、「これは最善のプレーではない。もっと素晴らしいプレーができるはずだ」と考えて、努力を続ける存在です。以上、3つの鉄則は、アスリートだけでなく、社会人の皆さんにも身に着けていただきたいと願っています。
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