2011/8/4

こころの病と進化(4)

【組織の多様性のすすめ その4】
参考文献: Carroll E. Izard” The Psychology of Emotions” p206

ボウルビーたちは、母親から幼い子どもを引き離し、母親が姿を隠すと、子どもがどのような反応するのかを観察しました。母親がいないことに気づいた子どもは、不安になり、泣き始めます。(不安と悲しみ) 不安は何か自分にとってよくないことが起きたとか、起きそうだという時に生まれる感情です。悲しみは、自分にとって大切なものを失くしたときに起きる感情で、自分以外の人に同情という感情を引き起こします。つまり、不安になった自分を守ってほしいという心の信号が、泣くという行動なのです。泣くと同時に怒ります。怒りは、「二度と愛する母親から引き離すな」という、周囲の人間や、母親に対する抗議や警告を幼児が表現していると考えられます。この最初の段階をボウルビーは「抗議」の段階と考えました。 抗議したにもかかわらず、母親が戻ってこないと、幼児は次の「絶望」の段階に入ります。悲しみや怒りがどんどん大きくなり、自分では事態を変えることができないという絶望的な気持ちが加わり、悲嘆の感情がかわります。 さらに母親が戻らないと、それ以上の苦しみに耐えることができなくなり、こころを閉ざして、何も感じないようにします。 「隔離」とよばれる状態ですが、うつ病の患者の抑うつ状態にそっくりです。幼児の実験では、母親は必ず、子どもの元へ戻りますので、子どもは抑うつ状態からすぐに回復できます。

 抗議→絶望→隔離というこころの変化は、職場に溶け込めなかったり、上司からパワハラを受けたビジネスパーソンにも見られます。ボウルビーを始めとする多数の心理学者は、幼児が愛する人からむりやり引き離されておきるこころの変化は、大人になっても繰り返されると考えています。幼児においては、自分のこころを閉ざして、何も感じないようにするこころの働きは、自分のこころをまもるための防衛機制の一種です。それに対して、大人の場合は、防衛機制ではなく、うつ病の入り口になっています。私たちが不幸な出来事に遭遇して、抑うつ状態になり、「いいから、私のことはほっといてくれ」と、他の人とのこころの交流を遮断したり、ほんとうは苦しんでいるのだけれど、自分は何も苦しんでいないと思いこむのは、幼児のときに獲得した自分のこころを守る働きです。こころを守る働きがあるゆえ、かえってこころの病になってしまう点で、花粉症やアトピーと良く似ていると私は考えています。

 組織の多様性を維持するために、こころの病に苦しむビジネスパーソンを職場から排除するのではなく、人間が本来もっているこころを守る機能をどう活用して、重い負担の仕事をしながらも、こころの健康を守るかを考えていくことが、たいへん重要ではないでしょうか。 こころの健康を守りながら、厳しいビジネス環境になかで、成長をとげていくための具体的な方法を当社はいくつか開発しましたし、現在も開発中です。このことについて、いつか、講習会を開催したいと考えています。