2016/8/16


少しずつ姿を隠すスキル




 
 永六輔さんや大橋巨泉さんが亡くなりました。亡くなる直前まで活躍されていましたが、それでも全盛期に比べ、マスコミへの露出度は減っていました。若い人たちは、おそらく、お二人のことを知らないのではないでしょうか?歳をとれば、次第に、自分を知ってくれる人たちは少なくなっていくのが普通です。

「人間は歳をとれば、だんだんと人々から忘れられる」という現象に対して、私たちは二通りの生き方が考えられます。自分の存在感を増そうと努力をする生き方と、忘れられることを受け入れて、他の人たちが、気がつかないうちに、人生の舞台から去っていく生き方です。前者の生き方は一つ間違えば、老醜になりかねません。後者の生き方は無気力につながるリスクがあります。どちらの生き方を選択するのかは、人それぞれでしょう。どちらの生き方が良いとは言えないのではないでしょうか。私は「他の人が、気がつかないうちに消えていく」派です。


 後者の生き方をした名女優がいます。イングリッド・バーグマンです。「カサブランカ」で輝くような美しさで世界を魅了したバーグマンは、「オリエント急行殺人事件」で、地味極まりない初老の女性を演じ、アカデミー助演女優賞を獲得しました。その後は病気のせいもあり、出演作品を絞り、名女優として世を去りました。その生き方は、彼女の代名詞である「自然体」でした。俳優の中には、いつまでも美しくありたいと抵抗し続ける人もいます。俳優魂としては、それはそれで評価できるかもしれませんが、個人的には、バーグマンの生き方に憧れます。私は名もなきの庶民ですから、バーグマンと比較するのはおこがましいですが、老いることを受け入れ、年相応の役割を演じ、「不思議の国のアリス」チェシャ猫のように、少しずつ消え去るスキルを身につけたいです。