2008/11/24

モチベーション(5)

 モチベーションは起動力であり、モチベーションのなかでもっとも進化したものが情動であるとすれば、ビジネスにおいて、情動がどのように働いているかについてよく考える必要があります。怒り、悲しみ、嫌悪、軽蔑、幸福、驚き、恐れなど、さまざまな情動は、それぞれ違った働きあり、人間の思考や行動、さらに生理的状態に違った影響を及ぼします。(注) 反対に、思考、行動、生理的状態は情動に影響を与えます。それぞれの情動ごとに、情動とその他の機能との相互作用を考慮にいれつつ、ビジネスのどのような状況のときに、どの情動が有効かを経験的に積み上げていくことが重要だと思います。

 ビジネスの状況によって有効な情動が変わってきます。怒りが有効なときもあれば、悲しみが有効なときもあります。ビジネスの現場では、できるだけ簡単で、応用範囲が広い方法が尊重されます。「どんなときでも有効な情動に関する原則はないだろうか」という質問をよく受けます。これまでのビジネス体験を統括すると、「情動をコントロールして冷静に思考し、行動する」ことが、成功のための鉄則である、と筆者は考えています。怒りですら、いくつかの選択肢を検討し、その効果を計算しつくしたうえで、怒りを表現しなければ、ビジネスでの成功には結びつきません。冷静に思考し、行動するためには、多様な視点にたって直面する課題を検討する習慣を習得することが第一歩です。

 とくに顧客や競合相手の視点に瞬時に立てるかどうかが成功のカギです。そのためには共感できる能力を開発することが必要になります。共感は相手の立場に立って考えたり、相手に成り代わって情動を感じることです。耳には快く聞こえる言葉ですが、実際は切実で、厳しいこころの動きです。愛する相手に対する共感はとても心地よく感じられます。商売の競争相手の考え方や感情を、相手に成り代わって感じることはかなり苦しい作業です。相思相愛ならば、思考や感情のベクトルはほぼ一致していますから、相手の視点で理解することは容易でしょう。商売敵となれば、価値観も、利害関係も相反しています。自分にとって不愉快なこと(たとえば、ライバルがあなたの弱点をすべて読みきっているなど)も、想定せざるをえなくなります。ライバルの視点に立って考える(共感1)→周囲のさまざまな人の視点で考える(共感2)→いくつかの仮説をたてる(過去の経験にとらわれない。ステレオタイプ的なものの見方をしない、などに注意する)→いくつかの仮説から一つを選択し、それをもとに意思決定を行う→意思決定の成果を測定する基準をあらかじめ決めておき、それに基づいて評価する。以上のようなプロセスを繰り返し、多様な考え方ができるようになれば、情動のコントロールをするための下地が出来上がります。



注: Carroll E. Izard ”The Psychology of Emotions” p40