2009/8/3
3:1の出来事主義(1)
【The broaden-and-build theory;3:1の法則】
参考文献: Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
Barbara L. Fredrickson & Marcial F. Losada “ Positive Affect and the Complex Dynamics of Human Flourishing”
バーバラ・フレドリクソンたちはポジティブな情動(行動や思考を前向きに促進する情動)とネガティブな情動(行動や思考を抑制したり後退させる情動)の割合が3:1のとき、個人もチームも、もっともよい業績を挙げることができるという調査結果を発表しています。他の研究者の再検証の論文をまだ見つけていませんので、学問的に確定したものではなく、仮説段階であると思われますが、2つのポイントを考慮すると、ビジネスの現場では実用に耐える考え方だと思います。(3:1とは一定期間のポジティブな情動とネガティブな情動を感じる頻度をもとに、情動の感じやすさや、それぞれの情動の特性を考慮して算出された数字です。アカデミックな研究をそのまま実務面に使おうとすると煩雑になりますので、実務的にはネガティブな情動を引き起こす出来事が1つあれば、直面する状況や周囲の環境からポジティブな情動を誘発する物事を3つ発見する方法がよいと思っています)
★ポイント1.ノーベル経済学賞の栄誉に輝いた最初の心理学者であるカーネマンは、情動の非対称という考え方を提唱しています。たとえば、10万円の利益を得たときのうれしいという情動よりも、10万円の損失をしたときに、「ひどい目にあった」というネガティブな情動のほうを強く感じる傾向が人間にあるというのが、非対称の意味です。同じレベルの刺激に対して、ネガティブな情動の閾値(いきち)が低いという表現を心理学ではします。もしポジティブな情動とネガティブな情動が1:1であれば、ネガティブな情動のほうが感じやすいですから、全体としては、ネガティブな情動に傾いてしまいます。腹をすかしたライオンが近づいてくれば、だれもが「おそれ」というネガティブな情動を引き起こし、じっと身をひそめ(行動を抑制)、敵の攻撃に備えるためにライオンがいる方向を凝視します(視野を狭める)ネガティブな情動は人間を危険から守るためには大きな役割をします。しかし、ビジネスで、多面的な視野に立ち、何か新しい事を成し遂げようとするときには、ネガティブな情動があまりに強すぎると、立ち往生してしまいます。3:1という数字を厳密に当てはめることはおすすめできませんが、ポジティブな情動を引き起こすほうが多くないと、個人もチームも成果をあげることが難しいことは理解いただけると思います。
★ポイント2.ネガティブな情動を必要であると考えていること
フレドリクソンたちの研究が信頼できる2つ目のポイントは、ネガティブな情動の必要性を認めているところです。ポジティブな情動とネガティブな情動の比率が11.6:1を超えると、個人もチームも業績はガタ落ちになると彼らは考えています。私自身のビジネス体験を振り返っても、わざとらしいくらい陽気なチームの業績やチームワークは長続きしないと思います。
それでは、ビジネスやスポーツの最前線で、3:1を維持するためにどうすればよいのでしょうか?このことについて次回で考えてみたいと思います。