2015/4/10 緊張していても、最高の力を発揮する方法




 とても悲しい事件ですが、チュニジアで起きたテロ事件の映像をご覧になった人は多いと思います。テロリストから逃げている人たちの姿を見ていますと、全員の人が身を縮めて安全な所へと急いでいました。銃弾から身を守るため姿勢を低くするように、兵士たちから言われたせいかもしれませんが、そういう注意がなくとも、逃げる時、私たちは身を縮めがちで、背筋を伸ばして、軽やかな足取りで逃げる人は少ないでしょう。

 私自身にも経験があります。1960年代後半は大学紛争が、いろいろな大学で起きました。私が学んでいた大学でも、過激派(当時は全共闘を呼ばれていました)の学生が大学を占拠しようと押しかけてきたことがあります。私は典型的なノンポリ(政治に関心がない学生のこと)でしたが、東大では過激派の学生が図書館の貴重な書物をメチャクチャにしたという報道がありましたので、大学の図書館を守ろうと思って、大学の正門で、大勢の学生と一緒に腕を組んでいました。ところが過激派が鉄パイプを振りかざして殴りかかってきたので、一番先頭の列が崩れました。するとたちまち、恐怖心が伝染して、総崩れとなり、私も逃げ出したのですが、身体ががちがちになって、思うように身体が動きません。あの時ほど、恐怖心を感じたことはありません。

 戦国時代、一番戦死者が出るのは、攻めるときではなく、逃げる時ということを本で読んだことがありますが、逃げるときは、人間はがちがちに身体が固まってしまうようです。おそらく原始時代、猛獣から身を隠し、息をひそめていたときの名残でしょう。私たちは逃げる時、いち早く身を隠して、身体を動かさないようにする心理の仕組みが自動的に働くのではないでしょうか。スポーツの試合でも、心理的に逃げにかかると、身体が固くなります。投手は打たれまいと思うと、腕が縮こまるのも同じ現象です。

 つまり、緊張していても、逃げずに、立ち向かっていけば、身体が固くなりません。緊張で身体が動かなくなるのではありません。緊張すると力が発揮できないと思い込んでいるので、緊張を感じたとたん、緊張を解こうとして解けず、「このままでは負ける」と思い、無意識で逃げにかかり、身体が固くなるのだと思います。ですから、緊張したら、立ち向かっていくことで、最高の力を発揮する確率が高まります。「逃げたらあかん」という大阪演歌の一節の通りです。以前外国でスリの集団に取り囲まれそうになったことがあります。武道の教えに従い、壁を背にして、一番ボスらしい男に飛びかかろうと身構えたとき、不思議なくらい、無駄なところに力が入らず、背筋もすっと伸びていました。覚悟を決めて立ち向かっていけばよいことを、身をもって知ることができました。