2009/12/15
オバマ大統領はなぜ鳩山さんを信じられなくなったのか
【3:1の法則をビジネスで活用する―組織編(2)】
参考文献:
Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
Barbara L. Fredrickson & Marcial F. Losada “ Positive Affect and the Complex Dynamics of Human Flourishing”
Carroll E. Izard “The Psychology of Emotions”
人と人との関係でwin-loseで終わる対決型コンテクスト(話の流れ)が存在し、そのコンテクストにおいて、仲良し型コミュニケーションを持ちこむとかえって関係が悪化します。最近起きたもっともよい事例がオバマ大統領と鳩山首相とのコミュニケーションです。
沖縄の基地問題は、アジアの安全保障や資源問題が複雑に絡み合った高度な政治的な問題です。この種の問題は基本的には仲良しコンテクストではなく、対決型コンテクストで交渉が繰り広げられます。外交辞令として、「日米がお互い納得できるwin-winの関係を強化できると信じている」など耳触りのよいコメントをオバマさんと鳩山さんは発表していましたが、そんなことを信じている国民は、日米両国ともにほとんどいないのではないでしょうか。
ところが鳩山さんだけは信じているふしがあります。信じていなければ、「大統領、どうか私を信じてください」という一国の首相として極めて無責任な発言はなかったはずです。「私を信じてください」というメッセージは典型的な仲良し型コミュニケーションです。忘年会の幹事であればまったく問題のない発言です。「みんなが楽しめる忘年会を実現する」ことは、仲良し型コンテクストの忘年会ではそれほど難しいハードルはありません。日米の文化交流促進のプロジェクト(仲良し型コンテクストの典型的な事例です)に関してなら、「私を信じてください」というメッセージは有効だったと思います。
しかし沖縄の基地問題に関しては、「日米間の考え方の違いは~です。(ここで違いを明確にする)この違いについて議論をさせてください。議論の過程で、アメリカにとって受け入れがたい意見を申し上げることもあるかもしれません。率直な意見を交換することが重要と考えていますので、貴国から率直に意見を言っていただくことを歓迎します」というメッセージくらいにとどめておけば、現在のような不信感をアメリカに植え付けることはなかったと思われます。
組織全体で3対1の法則を実現するためには、対決型コンテクストでは対決型コミュニケーションをきちんととることが大切です。スポーツのチームの場合は、共通の目標を設定することが容易です。高校野球であれば甲子園出場、スピード・スケートであればオリンピックという全員が共通の目標がありますので、対決型コミュニケーションの結果がwin-loseであっても、そのあと関係が決定的に破壊されるリスクは少ないです。
野球を例にとりますと、公式戦ではベンチに入れる人数には限りがあります。ベンチ入りができない選手にあらかじめ通知しなければなりません。この場合は対決型コンテクストです。しかも結果も監督の言い分が通り、選手は納得できないまま承諾せざるをえないということで決まっています。しかし対決型コンテクストはそこまでで、言い渡しのあとは監督とベンチ入りできなかった選手も甲子園出場という共通の目標は明確ですから、とってつけたような仲良し型コミュニケーションを指導者が持ち込まない限り、3:1は維持できます。