2018/10/5
批判することの難しさ2
信頼関係があれば、相当きつい批判をしても、ポジティブに受け止めてもらえます。悲しいことに、私たちの世界では、信頼できる人間関係は少ないです。むしろ、信頼していたのに裏切られたという話の方が巷に溢(あふ)れかえっています。太宰治の「走れメロス」が、今日でも読み継がれたり、CMに登場するのは、信頼関係が稀であることの反映かもしれません。
信頼関係ができていない状況で、批判的な意見(ネガティブ・フィードバック)を言う時、反論してもよいし、「ノー」と言ってもよいことを、相手に伝える必要があります。こちらの言い分が正しいことを相手にわからせようとして、理詰めで批判する人がいますが、効果がないばかりか、怨みを買うこともあります。批判されると、多くの人はムッとしたり、反発したくなるものです。そのガス抜きとして反論OKにしておくほうが安全です。
繁桝江里らのネガティブフィードバックの研究(注)はとても良い論文です。繁桝江里らはその論文の中で、ネガティブフィードバックを受け入れてもらうためには、「その内容が相手に役に立つものであること」という条件をあげています。一見当たり前のことなのですが、どんなことが相手の役に立つのかを見つけることが難しいです。さらに役に立ったことを、相手の人が気づくのがいつかということも考慮に入れる必要があります。親は子どもに「あなたは努力不足よ。もっと勉強しなさい」的なネガティブフィードバックをしばしばします。この文章を読まれた方の中に、親からこの手の説教をされた記憶を持つ人はいると思います。大抵の子どもは、親の言うことは聴かないものです。勉強することの大切さを思い知るのは、ずっとあとのことですし、言われた人はあとになって感謝するものです。
その場で効果を期待できない批判(ネガティブフィードバック)にもかかわらず、すぐに役に立ってもらおうと、延々と続く批判、俗に言う説教、をする人もいますが、逆効果です。ネガティブフィードバックは、短いことが命です。
注)繁枡江里・今城志保・菅原育子(2009)「上司からのポジティブ/ネガティブ・フィードバック―効用をもたらす条件の検討―」産業心理学会