2014/1/12タイムリーヒットの打てる選手の育て方(3)





 俯瞰、すなわち、全体を上から見ることは、野球ではどうすれば可能になるのでしょうか?高橋猛著「海軍めしたき物語」(新潮文庫)は、とても面白い本です。第2次世界大戦中に、日本海軍の軍艦に、炊事担当の水兵となった高橋さんの体験記です。炊事する場所は、軍艦の甲板から下の場所になり、炊事を担当した水兵さんたちは、終日、炊事に追われて、海を見る機会はほとんどなかったことを、この本で知りました。びっくりしたのは、ミッドウェー海戦に参戦したのに、何が行われているのかを高橋さんがほとんど知らなかったことです。当然ながら、高橋さんはミッドウェー海戦を俯瞰することはできませんでした。俯瞰をしようと思えば、俯瞰できる場所に立つことがベストです。

 野球の選手たちも、グラウンドに出ると、自分のやるべきことに集中しなければなりませんので、試合全体の流れを観ることは難しいと思います。自分の仕事だけに集中しなければならない点で、高橋さんによく似た立場に立たされています。試合全体の流れを観ることができるのは、監督です。私は選手たちに監督経験をさせればよいと考えています。高校野球の場合、練習試合といえども、相手チームを、そのチームの監督が指揮しているとき、高校生である選手が監督をすれば、相手チームに失礼になります。そこで中学生か、小学生のチームを指揮するとか、野球部のなかで紅白試合をするとき、選手が監督をするなど、監督経験を積ませれば、俯瞰力がつくのではないかと思っています。

 仮説をたてる力は、監督やコーチと選手が対話することで、培うことができると思います。私の知人の一人が、昔、高校野球部で、真田重蔵さん(第二次世界大戦前、海草中学で名投手として有名だった人)の指導を受けました。ポジションは捕手だったのですが、ベンチにいるときは、いつも真田さんの横に座らされ、真田さんからの質問に答えなければなりませんでした。たとえば、「お前が相手チームの捕手だったら、何球目にこの打者を仕留めるか?そしてそれまでの配球はどうするのか?」などの質問を受けます。真田さんとの対話で、どんどん捕手としての考える力がついたと話をしてくれました。「考える力=仮説を立てる力+仮説検証する力+検証された仮説をもとに、考えを深める力」だと考えていますが、高校生で要求されるのは、「仮説を立てる力」です。監督、コーチが、選手との対話に時間を惜しまないこと。さらに、選手が立てる仮説を頭ごなしで否定せず、まずは試合や練習で、検証させることを後押ししていただきたいです。

 責任について、次の機会に述べたいのですが、次回からしばらくは、12月に行きましたインド旅行で考えたことを書きたいと思います。そのあとは、ソチオリンピックに参加して考えたことを書くことを予定しています。「タイムリーを打てる選手の育て方」はしばらくお休みをさせていただきます。