2017/9/23
準決勝までと、決勝での戦い方の違い
智弁和歌山高校野球部の高嶋監督と会食する機会があり、その席で、たくさんの有益なお話を聴くことができました。講演でも話されていることですが、「決勝で勝つことを目標にチーム作りもするし、戦略も立てる」と高嶋監督は言われました。そのことに含まれている深い意味を、今年の夏の地方予選で、自分なりに理解することができました。
私がメンタルコーチをしている、山形中央高校と丸亀城西高校の二校がそれぞれ甲子園大会の地方予選の決勝戦に駒を進めました。両チームとも、好投手をそろえ、切れ目のない打線を作り上げていましたので、私自身も、自信をもって決勝戦に臨みました。結果は両校共に負けてしまい、メンタルコーチとしての責任を痛感しています。なぜ、決勝戦で負けたのかを分析している時に、高嶋監督の「決勝で勝つことに焦点をあてて、チーム戦略を立てている」という言葉を思い出しました。
地方予選の決勝戦で勝てば甲子園に出場できるのですから、全選手が心から勝ちたいと願っています。両チームとも「勝つ執念」は最高レベルに達しています。そういう試合で必要なメンタル要素は、「勝つ執念」でなく、「のびのび野球ができる」心の状態だと思います。のびのび野球ができる心の状態の、最も重要なメンタル面の土台は、「野球が好きなこと」です。準決勝までの戦いでは、限界的練習(注1)の積み重ねで生まれる高い技術とセルフ・エフィカシー、リードされてもくじけないレジリエンスが必要です。限界的練習を続けると、選手たちはとても苦しいので、「野球なんか2度としたくない」という想いにとらわれ、だんだん野球が好きでなくなるリスクが大きくなります。心身の限界に挑戦しつつ、野球がますます好きになる工夫をしておかないと、決勝戦で勝つことができません。その工夫の、メンタル面の必須条件は、選手たちが、練習や試合を、自分たちでコントロールできる感覚です。(注2)
高嶋監督が強いチームを作る秘訣として挙げられた「選手に考えさせる」ことが、コントロール感を生み出します。やらされ感だけ、ひたすら辛抱するだけだと、決勝戦を勝ち抜けるチームは作れません。しかし、やらされ感が多少あっても、苦しいことを辛抱して、限界的練習を耐え抜く意志力がないと、決勝戦にまでたどり着けません。このような二律背反することを、監督やコーチと協力してやり遂げるのがメンタルコーチの仕事です。
注1. アンダース・エリクソン&ロバート・プール著 土方奈美訳(2015 ) 『超一流になるのか才能か努力か?』文藝春秋 エルクソンによって提唱された、超一流の人に共通する、自分の限界に挑戦する高レベルの練習のこと
注2.アーロン・アントノフスキー著、山崎喜比古・吉井清子訳(2001)『健康の謎を解く』有信堂 首尾一貫感覚を構成する要素の一つの処理可能感