2009/3/18
モチベーション(13)
モチベーション(13)
【The broaden-and-build theoryについて】
参考文献:Bethany E. Kok, Lahnna I. Catalino and Barbara L. Fredrickson
“The Broadening, Building, Buffering Effects of Positive Emotions”
【企業で働く人たちの間で、相互に尊敬しつつ言いたいことがいえる雰囲気がない。しがたってほんとうにお客様を大切にする気持ちが育たない(山中鏆氏の教え)】
百貨店経営の神様と言われた山中鏆氏が「社員同士の和がない企業では、お客様との和もなくなり、トラブルが続発する」と社員を戒めたという逸話が残っています。職場がぎすぎすしていると、お客様との関係もぎすぎすしがちであることは、経験的にも理解できます。ネガティブな情動が職場に充満しますと、言いたいことを言えば、すぐにとげとげしい対立に変わって、尊敬の感情は消えてしまいます。
なぜネガティブな情動を感じる人が多くなると、よりよい人間関係を築きにくくなるのでしょうか。嫌悪と軽蔑の情動を相互に感じた人同士は、人間関係が悪くなるという研究結果がありますし、実体験からしても、嫌悪を感じたり、軽蔑を感じる人同士がいがみ合うようになりがちです。しかし、落ち込んだり、失望をしているときも、ネガティブな情動と考えられますが、なぜそのようなときも、強固な人間関係を築きにくくなるのでしょうか。ポジティブ心理学では、その理由を”self-other overlap”(自分という意識のなかに他人が重なり合っている領域の大きさ)の観点で説明します。長年付き合っていた親友が亡くなったとき、「こころの中にぽっかり穴があいたような寂しさ」や「自分の一部が引き裂かれたような苦しみ」を感じる人がたくさんいます。親友の存在がその人の心の中にしっかりと根を下ろし、その人のself(自己)の一部になっていたからだと考えられます。学生時代、名前くらいは知っていた同窓生の訃報を耳にしても、「そろそろ自分の番かな」とか、「えっ、そんな年でもないのに」などさまざまな思いはこころをよぎりますが、親友の訃報ほどの痛みは感じないものです。名前のみ知っていた同窓生のselfが、あなたのselfの中に入り込んでいないからです。人と人との関係の親密さはself-other overlapに関係があると考えられます。(Aron, Aron, Tudor & Nelson, 1991) ポジティブな情動を感じやすい人は、他人と出会ったとき、その人のselfと自分のselfの共通点を感じやすく、ネガティブな情動は共通点を感じにくくさせる働きがあります。2人の人間が闘っているとき、相手を倒そうと必死になっているのですから、相手との共通点を意識したり、相手の存在を心の中に受け入れて、認めてしまっては困るわけです。攻撃にネガティブな情動が付随することは自然で、自分と他人のoverlapを感じさせない働きをネガティブな情動が担っていると考えられます。
ポジティブな情動は人と人の関係を近付ける働きをしていますので、ポジティブな情動があふれている職場は親密な人間関係が作られていて、その雰囲気がそのままお客様との関係も近しいものに変えていきます。職場の和があれば、お客様からのクレームが減るという山中鏆氏の教えは、ポジティブ心理学の立場からも裏付けることができます。