2009/1/27
モチベーション(9)
モチベーション(9)
【The broaden-and-build theoryについて】
参考文献:Bethany E. Kok, Lahnna I. Catalino and Barbara L. Fredrickson
“The Broadening, Building, Buffering Effects of Positive Emotions”
バーバラ・フレドリクソンたちのポジティブ心理学に先立って、ポジティブな情動を研究し、フレドリクソンに影響を与えた人がいます。Isen, Daubman, Nowicki, たちです。彼らは1987年に、”candle task”という実験を行いました。実験に参加した人たちは、課題に取り組む前にポジティブな情動を感じやすい人か、ネガティブな情動を感じやすいかを調べられます。それが終わると、ロウソクとマッチ箱と画鋲を与えられます。壁にコルクボードがかけてあります。床やコルクボードの近くにおかれたテーブルに、ロウが一滴たりとも流れおちないで、ロウソクを燃やす課題に取り組むよう指示されます。Isenたちはポジティブな情動を感じやすい人たちのほうが課題をうまく解決した人が多かったという結果を得ました。つまりポジティブな情動は課題をうまく解決したり、創造的な思考を促進するのではないかとIsenたちは考えたのです。(注)
ポジティブな情動はなぜ創造性を促進するのでしょうか?2005年、フレドリクソンとBraniganはこの問題に取り組み、ポジティブな情動は人間の視野や思考の枠を広げ、ネガティブな情動は視野や思考のわくを狭める働きをすることを実験で証明しました。私たちの日常生活でもこの実験と同じ現象を体験できます。人から嫌なことを言われたときや、恋人にふられたときは、そのことを考えないようにしようと努力をしても、その出来事が頭から離れないという体験をした人は多いのではないでしょうか。つまりネガティブな情動は思考の枠を狭め、ネガティブな情動を引き起こした原因に人間の意識を集中させます。反対に、上司にほめられたり、好きな人からプロポーズされたら、将来の楽しい生活など、いろいろな可能性がつぎつぎと頭に浮かんできた人が多いと思います。ポジティブな情動は思考の枠を広げて、今まで考えたこともないようなことを考えたりします。思考の幅が広がり、解決策がたくさん思いつけば、効果的な解決策にたどりつく可能性は高まります。創造性の機能の一つは、いろいろな視点から、多様な解決策を考えだすことですが、ポジティブな情動は、ものの見方の幅を広げるという働きを通して、私たちをより創造的にしてくれるとフレドリクソンは考えました。
創造性にはさらにもう一つの機能があります。そのことについは次回にふれることにします。
注:上記の実験はIsenたちが初めて行った実験ではない。もともとの実験はドゥンカーによる機能的固着の実験として有名。 市川伸一「学習と教育の心理学」岩波書店 p89を参照していただきたい。
「日常的な事物をある目的のための手段として使っていると、その他の目的のために使えることに気付かないことがある。これは機能的固着(functional fixedness) と呼ばれる現象である。ドゥンカー(Duncker, 1945)の実験では、床やテーブルにロウソクを立てられないとき、図5-7のようないくつかの品物を材料にして、何とかロウソクを立てて火をともすことができないかを考える課題が出された。正解は、マッチ箱を画鋲で壁にとりつけて台にすればよいのであるが、これがなかなか難しい。特に興味深いのは、箱の中に画鋲が入っているときのほうが、外に出してあるときよりも考えつきにくいことである。箱を「入れ物」としてとらえているときには、それを何かを載せる「台」にするというアイディアは生じにくいのであろう。
問題解決の際には、構えや機能的固着が妨げとなって創造的な発想に至れないことが少なくない。つまり、ある状況への慣れが、無意識的制約となってしまうのである。」
Isenたちの研究結果をドゥンカーの研究に関連付けて表現すれば、「ポジティブな情動は、機能的固着を起こりにくくする働きがある」ということになるだろう。