2009/11/13

仲良し型コミュニケーションと対決型コミュニケーション

【3:1の法則をビジネスで活用する―組織編(1)】
参考文献:
 Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
 Barbara L. Fredrickson & Marcial F. Losada “ Positive Affect and the Complex Dynamics of Human Flourishing”
 Carroll E. Izard “The Psychology of Emotions”

 私は現在、日本電産サンキョーのスケート部と丸子修学館野球部のメンタルコーチをしています。両チームともにメンバーの合言葉は「3:1」です。チームはときにはピンチに見舞われることがありますが、そんな時はコーチや選手たちが「3:1」と声をかけあっています。

 個人がポジティブ3:ネガティブ1を創り出し、その割合を維持するよりも、組織でそれを実現することのほうがはるかに難しいと、私自身の体験から結論づけています。組織で3:1の実現が難しい理由はコミュニケーションに2種類あるからだと思います。「コミュニケーションをとる」「コミュニケーション能力を磨く」「ヒューマンネットワークを構築するにはコミュニケーションが必要だ」などと、一般で論じられるコミュニケーションは、人と人との間を接近させるためのコミュニケーションです。その種のコミュニケーションを「仲良し型コミュニケーション」と呼ぶことにしましょう。しかし人間社会では、とくにビジネスの現場では、「相手をうちのめす」「相手を支配する」「相手を自分の意思に従わせる」「相手を追い払う」「相手の欠点を指摘する」などのコミュニケーションが必要になります。後者を「対決型コミュニケーション」と呼びましょう。

 幼稚園や学校では「友達と仲良くしましょう」と教えられます。私たちは仲良し型コミュニケーションについて、正式なトレーニングを受けるわけではありませんが、先生や親からなんとなく教えられます。しかし対決型コミュニケーションを教えられることはありません。それどころか、対決型コミュニケーションはしばしば悪者扱いをされます。しかしビジネスの現場では、「相手を打ちのめす」ことが必要なことがあります。マネジャーは部下をときには「自分の意思に従わせる」ことが必要です。多忙な経営者は「誠意なく、すり寄ってくるうさんくさい人間を追い払わねば」なりません。「相手の欠点を指摘する」ことにいたっては日常茶飯事です。私たちは悪者扱いをされ、教えられることもなかった「対決型コミュニケーション」を、組織内で、見よう見まねで使わざるを得なくなります。自動車の運転の練習をしたことがない多数のドライバーが、高速道路で車を走らせているようなものです。

 企業の組織では、対決型コミュニケーションによる対人関係の葛藤に満ち溢れていて、3:1の法則どころではなくなります。3:1の法則を読み、現実的ではないと感じた読者もおられるでしょうが、納得でいない根源には、「対決型コミュニケーション・スキル」から起きている組織内軋轢を目の当たりにされた経験があるからではないでしょうか。