2011/10/15

創造性開発の難しさ(4)


 創造的に考えるにはどうすればよいかについて、2つの軸で考察すると、「みんなで自由に意見を出し合う方法」がすべてではないことがわかります。1つの軸は追及するテーマに必要な情報が、広範囲に広がっているか、狭い範囲に限定されているか、つまり情報の分散と集中です。2つ目の軸は、ビジネスが対象とする人がどれくらい広がっているか、つまり顧客の分散と集中です。集団的な思考法と個人的な思考法と独創性の関係を考えてみましょう。
                                  対象顧客
分散
集中
テーマの情報


分散

Ⅰ:みんなでアイディアを出し合う集合的な思考方法が適している

例:アサヒ・ドライ

Ⅱ:情報収集は集団的な思考方法、イベント企画や作品の制作は個人的な思考方法

例:本や音楽の制作
集中

Ⅲ:情報収集は、特定分野の専門家による個人的思考方法。実際のイベント企画は集団的思考方法

例:結婚式のプロデューサー

Ⅳ:一人でじっくり考える個人的な思考方法が適している。

例:ココ・シャネル。現代なら陶芸家や宝石デザイナー



 テーマの情報とテーマが対象としている人々の両方が集中している好例として、ココ・シャネルが挙げられます。ココ・シャネルが取り組んだオートクチュールで、創造的な仕事をするために必要な情報は、同じ時代を生きた政治家のフランクリン・ルーズベルトが必要とした情報ほど、広い範囲に分散していませんでした。当時のパリのファッション産業の規模も今日ほど大きくなく、オートクチュールの顧客の数は限られていました。現代の代表的なデザイナーであるアルマーニ―は、シャネルとは比べものにならないほど、多様な顧客を相手にビジネスを展開しなければなりません。アルマーニ―・ブランドの作品に占めるアルマーニ―自身の作品の比率は、かってのシャネルのそれよりもかなり低いと思われます。

 私が若いころ受講した創造性開発のワークショップは、上記の表のⅠにあたるものであれば、適していたと思います。領域Ⅰの成功例は、アサヒ・ドライの開発でしょう。不特定のエンドユーザーを対象とする、日常生活に使われる商品開発は、ワイワイガヤガヤ的なやり方があっているのではないでしょうか。

 日本の高度成長期で、エンドユーザーは今日のようにタコつぼ的に分散していませんでした。(ある特定の小規模な消費者グループをビオトープという生物学の用語を使って、特定の消費者の集合を表す人もいます)したがってエンドユーザー向けの商品はみんなでアイディアを出し合って創り上げたほうがヒットしやすく、そのような商品開発を前提としたワークショップが流行したと思われます。

 今日の商品開発はⅠからⅡの領域へ移りつつあります。このことについて次回に考えてみましょう。