2009/5/26

モチベーション(15)

モチベーション(15)
【The broaden-and-build theoryについて】
参考文献:Bethany E. Kok, Lahnna I. Catalino and Barbara L. Fredrickson

 “The Broadening, Building, Buffering Effects of Positive Emotions”
 ポジティブな情動をうまく使えない企業は「とにかく暗い」、という意見に対して、「ポジティブな情動が使えないから、ネガティブな情動ばかり使うので、暗いのは当たり前ではないか」と思う人が多いかもしれません。しかし中立的な情動も存在しますし、アレキシサイミア(失感情症)のように、感情がまったく感じられない人もいますので、ポジティブな情動を上手に使えないからといって、即、暗くなるというわけではありません。ではなぜポジティブな感情をうまく使えない人が多くなると、企業は暗くなり、業績が低下するのでしょうか。

疲れてくるといらいらする人は多くなります。赤ちゃんも遊び過ぎて疲れてくると機嫌が悪くなります。ネガティブな情動は、人間を危険から守る役目を果たします。腹を空かせた猛獣が近付くと、恐怖を感じ、逃げ出したくなります。敵と遭遇すれば、怒りや緊張を感じ、戦闘態勢に入ります。ネガティブな情動を感じるような状況では、交感神経が活発になり、アドレナリン(エビネフリン)がさかんに分泌されます。闘争または逃走状態では、心拍数が増え、皮膚の血管は闘争時の出血を防ぐために収縮します。ネガティブな情動を感じると、「闘争」か「逃走」の心身状態になりますが、そのような状態が続くと、疲労が激しくなり、余計にいらいらしてきます。ポジティブな情動は、心拍数をさげ、心臓の働きを穏やかにするという実験結果が残されています。(Fredrickson & Levenson 1998) 帰宅して玄関のドアを開けたとたん、誰かが飛び出してきてびっくりしたとします。そのときアドレナリンがはたらき、心臓の動悸は激しくなります。飛び出してきたのが、泥棒だったら、戦闘状態に突入しますので、ますます心臓はどきどきします。しかし飛び出してきたのが、あなたのお子さんだとわかれば、たちまち驚きは喜びにかわり、動悸はおさまるはずです。ネガティブな情動を感じる人は疲れやすく、ポジティブな情動を感じる人は、リゾートで何もしないでくつろいでいる人のように、疲れにくいのです。つまりポジティブな情動をうまく使う職場は、みんな疲れを感じにくく、明るい雰囲気になります。
雰囲気が暗い職場は、病気で休む人が増える傾向がありませんか?

ポジティブな情動を感じやすい人は風邪をひきにくくなるという実験データがあります。(
Cohen, Doyle, Turner Alper, and Skoner, 2003) ポジティブな情動は免疫力を高める機能があると言われています。反対にネガティブな情動が蔓延している職場では、風邪や腹通を起こし、そんな職場に行きたくないという心理も作用して、会社を休む人間が続出します。筆者も若い時、倒産寸前の零細な企業を経営した経験があります。社員は病気で休んだり、早退する人が毎日にようにでてきて、仕事がスムースにできず、余計経営が苦しくなりました。
ポジティブな情動が使えないと、職場の人間関係が悪化し、病気で休む人も増え、業績は悪化します。暗い職場はますます暗くなっていきます。