2009/10/14
終わりよければすべてよし (2)
【3:1の法則をビジネスで活用する―個人編(4)】
参考文献: Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
Barbara L. Fredrickson & Marcial F. Losada “ Positive Affect and the Complex Dynamics of Human Flourishing”
Peak-and-end ruleは1993年にカーネマンとフレドリクソンの共同研究から生まれた心理法則です。楽しいか、苦しいかという評価は、その頂点のときと、その終わりの時の感覚で決まるという法則です。前回の設問で、出来事のレベルがすべて同じなら、最後にネガティブな出来事がくれば、全体の印象はネガティブになるというのはこの法則に基づいています。
私は食べることが好きですので、フレンチのフルコースを食べたときを例に挙げて説明をします。フレンチを食べ終えて「この店のフレンチはおいしかった」と思うのか、それとも「もうひとつだな」と思うかは、コースのなかで一番おいしかったと思う料理と、最後に出されるデザートのおいしさの2つで決まるというものです。料理であれば、あらかじめコースの設定ができますから、絶頂をどこに持ってくればよいのか、最後のデザートを何にすればお客様は満足するのかは、腕のよい料理人ならば、ある程度コントロールできます。
しかしビジネスは自分の予測していたことや、あらかじめ決められたシナリオ通りには展開できません。とくにピークを自分で決めることはできません。こちらとしては歓迎したくないのですが、最悪の事態が起きてしまい、その日のピークはネガティブなものになることはしばしば起きます。(もちろん、こちらの目論見どおりにビジネスが展開し、最高の1日だったということもありえます。そのような幸運なときは、最後に少々不愉快な出来事が起きても、「今日はいい日だった」と思えるでしょう)それに対して、仕事を終えるときは、一人で終わりの時間を迎えることは可能です。1日の最後をポジティブな情動を持てるように努力すればよいわけです。
私の1日の仕事の終わりはメールのチェックです。このときメールの送信人をみて、悪い情報をもたらしそうなメールは翌日に回すようにしています。こちらの気持ちをおちこませるようなメールを送ってくる人は、だいたい決まっています。よほどの緊急時であれば、メールだけでなく電話もかけてくるでしょうから、メールだけなら翌朝まで放置しても大丈夫です。そのかわり、翌朝一番でメールを開き対応します。仕事を終えたあとはプライベートな時間です。よい家庭を築いていると、プライベートな時間では間違いなく幸福な気持ちになれます。3対1の法則を守ろうとすれば、よい家庭は最低必要条件でしょう。独身の人はすばらしい友人や恋人の存在が欠かせません。
仕事を終える寸前にとんでもないトラブルに見舞われたり、上司に呼び出されて叱られたりすれば、終日いやな気持があとを引くのではないだろうかと思われる人もいるでしょう。この指摘は心理的には正しいです。悲しみ、怒り、罪悪感などが絡み合って人間の気持ちをおちこませますが(この心理的状態を抑うつと呼ばれます)、抑うつ状態はあとに尾をひく特徴があります。いくら楽しいメールをみても、愛する家族の顔を見ても、「あのトラブルがなければ、どんなに楽しいだろう」と思ってしまい、1日の最後を暗い気持ちで迎えることになります。後々まで影響を与える抑うつ状態にどのように対応すればよいのかについて次回ご説明をしましょう。