2011/1/21

笑顔と挨拶だけでよい組織は作れるか?

【3:1の法則をビジネスで活用する―組織編(5)】
参考文献:
 Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
 Barbara L. Fredrickson & Marcial F. Losada “ Positive Affect and the Complex Dynamics of Human Flourishing”
 Carroll E. Izard “The Psychology of Emotions”

 3:1という比率では、ポジティブな感情が3で、ネガティブな感情が1の割合ですから、比率の高い3に注目して、ポジティブが一番というコンセプトで組織作りをするリーダーもいます。ところが、とにもかくにもポジティブ第一と考えてしまい、テレビのバラエティー番組みたいに、不必要なまでに「盛り上がり」を部下に要求すると、大きなリスクが生まれることになります。いわゆる「気合い演技」が組織に広まってしまいます。返事の元気がよい、笑顔がよい、気合いが入っている、大きな声であいさつする、などの言動だけが賞賛されるようになります。

 「人間は悲しいので泣くのではない、泣くから悲しいのだ」という心理学者ウィリアム・ジェームスの言葉を耳にした人は多いでしょう。たしかに、人間の行動が、感情を誘発する心理現象は存在します。部下を叱っているうちに、怒りがエスカレートしてしまった体験を持つ人は多いのではないでしょうか。その文脈で考えれば、元気な振りをしているうちに、心まで元気になるのだから、元気な言動をしようという考えは正しいように見えるかもしれません。しかし、怒りを例にとれば、最初に怒りを感じないと、「叱る」という行動は起きないはずです。少なくとも、叱る相手の行動が間違っていると感じ、しかも相手にかなり厳しい表現で間違っていると伝えなければ、自分の思いは伝えられないと感じています。叱っているうちに、「叱る」という行動が、最初にうまれた「怒り」の芽を育て、エスカレートさせていると解釈したほうがよいのではないでしょうか。怒りによって、相手が自分のことをおそれたり、嫌悪の念を抱いてはいけないので、怒りの感情を、ポジティブな感情に変えようとして、無理な笑顔をする、相手の行動をほめたたえたりしても、怒りを引き起こした原因は残ったままですから、怒りが消えることはありません。むしろ、怒りを表現せずにこころに秘めたままですから、怒りがねじれたもっとやっかいな感情に変質するリスクもあります。たとえば、自分がここまで我慢をしているのだから、相手はそのことに気づき、自分にもっと感謝すべきだ、などと思い込むこともあるでしょう。このような思い込みは、人間関係をますます悪化させることになります。なぜならば、間違った行動をしている人は、「周囲にいる誰かが怒りを我慢していること」にまったく気づきませんから、平気で間違った行動をし続けるからです。そうなれば怒りは憎しみに変わるかもしれません。

 元気な振るまいをする、仲良しのふりをするなど、「ふり」をする行動だけで、ネガティブな状況のなかにあって、組織全体の感情を3:1に維持することはできません。私は、ネガティブな状況でも、ポジティブな状況でも、組織メンバーが「約束を守る」ことが、組織の感情を3:1に維持できるベストの方法だと考えています。次回は「約束を守る大切さ」について考えてみましょう。