2014/8/10 甲子園(2)~3人の投手~





 私が子どもの頃は、夏の甲子園大会に出場する高校は、たいていは一人のエースがいて、その投手が最初から最後まで投げ抜きました。徳島商業の坂東英二投手や、浪商の尾崎行雄投手などの雄姿が思い浮かびます。1960年代までは、継投で勝ち抜く高校は多くなかったと思います。しかし、1970年ころから事情は変わってきます。その理由の一つは、全国の予選出場高校の数が飛躍的に増え、地方予選の試合数が増えたことです。ちなみに第1回大会(当時の名称は全国中等学校優勝野球大会)の予選参加校は73校、1973年の夏の甲子園予選の参加校は2660校、2014年は4112校です。

 全国最激戦区の一つ神奈川県は、シード校で優勝まで7試合、ノーシードなら8試合を戦い抜かねばなりません。ここ10年の夏の高温傾向で、グラウンドは40度を超える猛暑になります。シード権をとった強豪校が7試合を勝ち抜くためには、最初の3試合から4試合は、エースを温存します。強豪校同士がぶつかり合う後半戦にエースを登板させます。しかし、エース一人では勝ち抜けません。一人の投手で勝ち抜けないもう一つの理由が、情報戦です。強豪校は例外なく、対戦相手となりそうな高校は、普段から徹底的に観察をして、選手の強みと弱みを把握します。またデータを分析し、監督の癖をつかんでいます。とくにエース級の投手と、クリーンアップを打つ選手に関しては膨大なデータを集めます。甲子園に出場するために、準決勝や決勝であたりそうな高校に対して切り札となる投手をできるだけ登板させないようにする必要があります。決勝戦だけに、ほんもののエースを登板させ、相手の高校をあわてさせるのが理想です。私がメンタルコーチをしている地域は、山形県、長野県、神奈川県、香川県です。そのうち2つの地域の甲子園出場校は、複数のエース級投手をそろえています。山形県の山形中央高校は、エース級が2人で、準エース級が1人。神奈川県の東海大会相模高校は4人のエース級投手をそろえています。これからもエース級を複数育成しないと、甲子園出場は難しいと思います。理想的には、前半戦を投げ抜く準エース級の投手(翌年のエースに育つ投手)と後半戦の中心となる2人のエース級投手です。

 実はこのことはビジネス界でも言えます。各組織にエース級の人材が複数必要です。理由はスピード経営に適応するためです。ビジネス界はリクシルの藤森さんや、ローソンからサントリーにうつる新浪さんのような、専門的経営者が増えています。かれらの共通する特徴は、圧倒的なスピード経営です。かれらの下では、各組織は悲鳴をあげるくらいの大量の仕事を短時間で処理する必要がでてきます。組織にエース級人材が1人しかいないと、彼がぶっ倒れれば、仕事のスピードが大幅にダウンします。複数のエース級人材がいれば、交互に休養をとらせるか、軽い仕事と重い仕事を振りわけて、雨のように降ってくるトップからの要求を長期にわたってこなすことができます。仕事が激化すればするほど、人材育成をしなければなりません。



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