2014/11/22 メンタルコーチの一番の悩み





 メンタルコーチをしていて、悩みがあるのかと不思議がられることがあります。まさかと思われる方も多いと思いますが、「えっ、松下さんも悩むのですか?」と言われたことが、何度もこれまであります。すべてのお坊さんが悟りの境地に達していると限らないのと同様、メンタルコーチであっても悩みから解放されている人は少ないでしょう。私はメンタルコーチとして未熟なのか、悩んでばかりいます。そのなかでも、一番の悩みが、スポーツ界で根強く残る「リラックス信仰」、言い換えれば、「緊張嫌い症候群」です。

 最近、若い指導者のなかでは、スポーツ心理学が浸透したためか、「リラックス信仰」は減ってきていますが、それでも「おーい、もっとリラックスしろ」と声掛けをする指導者は少なくありません。この連載コラムでも、何回か、「緊張とパフォーマンスは関係がありません」と書いたのですが、「緊張すると普段の力が出ないから、もっと肩の力を抜いたほうがよい」と考える指導者や選手に出会います。その度に「緊張とパフォーマンスには関係がない」と説明するのですが、信じてもらえないことが、メンタルコーチしての一番の悩みです。

 ほとんどの指導者は現役時代に数多くの修羅場をくぐり抜けた強者です。当然のことながら、失敗もたくさんしていて、監督やコーチから「無駄なところに力は入っているぞ。もっとリラックスして試合に臨め」と言われた経験があるはずです。そのことが繰り返されていくうちに、次第に「リラックス信仰」の罠にはまってしまいます。しかし、ここでよく考えていただきたいのですが、たいていの人は、ここ一番の大試合とか、入学試験とかで、緊張を経験しているはずなのです。自分の名誉がかかっていたり、選手生命がかかっていると、全員とはいいませんが、たいていの人は緊張します。「私は、これまでの選手生活で、一度も緊張したことがない」と豪語する人でも、会社の昇進試験のときはがちがちに緊張したという話を聞きます。大切な場面で緊張することのほうが自然です。自然なこころの動きに逆らうと、逆らうことにエネルギーを使いますので、プレーに対する集中力がなくなります。私は、メンタルコーチとしては、自然なこころの動きに従うことを重視しています。

 緊張して、身体ががちがちになって普段の力が発揮できなかった思い出を持つ人も多いでしょう。しかし、緊張しても、とてもよいプレーができた思い出を持つ人も、また多いはずです。緊張していても、よいプレーができる方法はあるのでしょうか?それについて、次回に述べます。