2011/3/22

<緊急寄稿>お話を聴くこと


 東北関東大震災で被害にあわれた方々に心からのお見舞いを申し上げます。

 このブログの読者の方々も、連日テレビや、新聞、インターネットを通して、報道される映像や記事をご覧になられて、こみあげてくる悲しみに胸をえぐられる思いをされたでしょう。 被害にあわなかった方が被害にあった方とお話をする機会を持たれるかもしれません。長年、カウンセリングの仕事をしてきましたので、そのような場合、留意していただきたいことを2、3述べさせていただきます。

【相手の話をさえぎらない】
カウンセリングの父、カール・ロジャーズが提唱した「全面的受容」が、想像を絶する苦しみを経験された方のお話を聴くときの、もっともよい方法だと思います。経験者しかわからない苦しみや悲しみがあり、それを安易にわかろうとしたり、未経験者が、自分の類似的な経験と比較しながら、理解していることを示すことほど、話し手のこころを傷つける行為はないでしょう。話をされることを、そのまま受け入れてください。受け入れるとは、頭で理解するのではなく、身体全体や、自分の存在全体で、お話をしっかり受け止めることです。「わかりました」とか「よくわかります」という言葉よりも、自分の感情を、表情や姿勢で、控え目に、誠実に表現するのがよいと思います。

【安易な励ましは禁物】
今回のような被害に会われた方々は、自分でなんとか立ち直りたいと、こころの中で懸命の努力をされています。そのような苦闘の中にいるとき、「頑張ってください」とか、「明日があるから、気持ちを切り替えて」と言われても、わかってもらえないという孤独感は募るばかりです。もちろん、被害にあった人は、「がんばってください」と声をかけられれば、「ありがとうございます」と返事はされるでしょうが、そこで切り離されたような気持ちになる方が多いようです。お話が終わってから、「何かお役に立つことはありませんか」などと、サポートを申し出ることはよいと思います。親しい人であれば、黙って相手の手を握ることもよいと思います。

【根掘り葉掘り聞かないこと】
傾聴というのは、根掘り葉掘り聞くことではありません。地震が起きたときの状況などを根掘り葉掘り聞くと、フラッシュバックが起きて、強度なストレスを感じたりするリスクがあります。PTSDなどの精神障害などの心理療法の中には、そのような状況が過去の出来事であることを意識づける目的で、クライアントに過酷なストレス体験を語ってもらうやり方もありますが、専門的な訓練を受けた人が実施しないと、症状が悪化するおそれがあります。被害を受けた方が、自ら語ることだけを、静かに傾聴してください。

【ともにいることの大切さ】
人間は社会的動物です。孤独や孤立は人間のこころを荒廃させます。お話を聴くという行為は、話をする人に、「私はあなたと共にいます」というメッセージを送り続けているのです。話を聴いてほしいと思う方がおわれたら、自分のすべてを傾けて、その方のお話を聴いてください。