2009/8/13
3:1の出来事主義(2)
【3:1の法則をビジネスで活用する―個人編(1)】
参考文献: Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
Barbara L. Fredrickson & Marcial F. Losada “ Positive Affect and the Complex Dynamics of Human Flourishing”
ポジティブな情動とネガティブな情動を3:1に保つためにはどうすればよいでしょうか?学問的な研究は途に就いたばかりですから、今後いろいろな方法が開発されると思います。ここからは、私がビジネスやスポーツの領域で実践している方法を紹介しましょう。個人と組織(チーム)にわけて説明をします。まずは個人からです。
人間はポジティブな情動を感じやすい人(ポジティブな情動に対する閾値が低いと、心理学では表現します)とネガティブな情動を感じやすい人がいます。生まれつきなのか、人生のいろいろな体験を積み重ねてそうなっていくのかはまだ不明です。病気を治すときは、原因を突き止めたほうが、効果的な治療法を見つけるのに役立つでしょうが、こころの健康な人においては、原因究明よりも、対処方法を習得したほうが、実際の生活に役立つことが多いと思います。したがってここではなぜそのような閾値の差が生まれるのかには言及しません。
ビジネスやスポーツの現場では、不安、おそれ、失望、あせりなどのネガティブな情動を1つ感じたら、すぐに、絶好調の時や、楽しかった旅行などポジティブな情動を感じた体験など、3つのポジティブな出来事をイメージする習慣をつけます。このときネガティブな情動を無理に抑えようとしたり、その情動を引き起こした出来事を無視したりしないように注意します。1つのネガティブな情動を引き起こす出来事が起きたら、すぐにポジティブな出来事を3つ思い出す簡便な方法で、私は「3:1の出来事主義」と呼んでいます。「3:1の出来事主義」は心理学的にいえば、間違っているかもしれません。なぜならば、情動の質やレベルをまったく無視しているからです。たとえば、ルーティン業務で、ちょっとしたミスをしたときと、重要なプロジェクトで大失敗をしたときとでは、同じ「後悔」と名付けられた情動が起きても、その感じるレベルやこころに与える影響の大きさがまったく違うからです。後者の深刻なケースでは、3:1の原則を単純には当てはめるだけで試練を乗り越えることは難しいでしょう。幸いなことに、そのような大変な事態は日常的に起きません。したがって「3:1の出来事主義」で日常レベルのビジネスで、成果をあげることができると考えています。
「3:1の出来事主義」を適応してはいけないときがあります。愛する肉親や配偶者の死や、飢えに苦しむ子どもたちの写真や実際の姿に接したときです。人間の尊厳が傷つけられたときも「3:1の出来事主義」を適応してはいけないと思っています。人生には心から悲しむべきとき、心から怒るべきときがあります。そのような事態に出会ったとき、私は全身全霊をこめて悲しみ、あるいは怒ろうと心に決めています。