2013/7/8緊張とパフォーマンス(1)
スポーツの現場で仕事をしていますと、「緊張すると、よいパフォーマンス(結果)を生み出せない」という迷信にしばしば出会います。「もっとリラックスしていけ!」とか。「肩の力を抜け!」と声をかける指導者もたくさんいます。この文章を読んでいる方の中には、子どもの頃や、学生時代に、そのように声をかけられた人は多いと思います。そういわれると、かえって緊張したり、肩に力が入った経験をした人も多いでしょう。人間の心理は天邪鬼なところがあります。見てはいけないと言われるとかえって見たくなる、のも同じ心の仕組みです。私はメンタルコーチとして、オリンピックも、高校野球の甲子園大会にも参加しました。選手たちは、ものすごく緊張していましたが、メダルをとりましたし、試合にも勝ちました。世間で信じられていることと、スポーツの現場で起きている現象とは違っていました。
ある日のこと、「緊張と試合結果とが直接関係していることを表すデーターはない」と書かれたスポーツ心理学の文献に出会ったとき、目が覚めたような気になりました。「緊張していても結果がよかった」という実例と「緊張していて結果が悪かった」という実例を同じくらい挙げることができます。「緊張したら、結果が悪いこともあれば、よいこともある」というの私の実感です。
2回のオリンピックに参加した経験から言えば、メダルを本気で狙っている選手のほとんどは、ものすごく緊張していました。それとは逆に、オリンピックに参加できただけで満足し、メダルを狙うには程遠い選手は、リラックスしている選手が多かったですし、少なくとも緊張度は低かったです。もし、緊張せずに、リラックスしているほうがパフォーマンスがよいというのが真実であれば、メダルから遠く離れた実力の選手がもっとたくさんメダルをとってよいはずです。オリンピックや甲子園大会では、しばしば番狂わせはあります。しかし、いずれも実力は伯仲しています。スケートのショートトラックで、一番後ろを滑っていた選手が、前を滑っていた選手全員がひっくり返ったため、金メダルを獲得したことがありました。しかし、このハプニングが起きたのは決勝のレースでした。ショートトラックの決勝レースにまで進出することは容易ではありません。一番後ろを滑っていた選手も相当緊張してレースに臨んだはずです。
それではなぜ選手は大試合には緊張するのでしょうか。この緊張状態を、アメリカの心理学者ラザルスはat stakeと表現しました。At stakeとは、「賭博などで、お金をかけた状態」を指す言葉です。試合に臨む選手の、名誉、財産(契約金)、生命がかかっていればいるほど、つまり実際のかけ金や、こころのかけ金が大きければ大きいほど、選手は緊張をするものです。ビジネスでも、投資額が大きければ大きいほど、その意思決定をする経営者の緊張は大きくなります。大切な試合に臨んで、緊張するのは自然なことです。しかし、「緊張しすぎて、日頃の練習でできていたことができず、実力を発揮できなかった」体験をした人はたくさんいます。そのような体験をした人は、「緊張とパフォーマンスは直接的な関係はない」という考えを納得できないと思います。ほんとうに「緊張とパフォーマンス」とは関係がないのでしょうか?