2016/6/29


なぜエラーは連鎖するのか?




 
 スポーツの指導者から、「エラーが連鎖的に起き、そこから敗戦につながることがある。なんとかエラーの連鎖が起きないようにしたいが、どうすればいいのだろうか?」という相談を受けることがあります。例えば、野球で、内野ゴロを野手がファンブルし、慌てて一塁に投げたら暴投になり、別の選手が二塁に向かったランナーを刺そうと二塁に投げたら、また暴投になったというケースなど、枚挙にいとまがありません。なぜ、チームスポーツでエラーが、連続して起きるのでしょうか?

 実は、個人スポーツでも起きます。その場合は、エラーの連鎖とは言わず、ミスの連続と 言われることが多いように思います。例えば、スピードスケートでスタートに失敗したスケーターが、コーナーを回るとき、普通ならしないようなまわり方をしてスピードが落ちてしまうということが起きます。個人スポーツでは、その選手の技量が不足しているとか、その日は調子が悪かったのだろうと思われますが、チームスポーツだと、一人の選手だけにとどまらず、次々と 別の選手がエラーをしますので、観客は「あれ?いったい何をしているんだ!」と応援している人は腹ただしさと、落胆を感じます。相手側の応援団は大喜びしますので、エラーをしたチームはさらにプレッシャーを受けます。

 チームスポーツも、個人スポーツも、連続してエラーをしたり、ミスをする心理的な原因は同じだと、私は考えています。それはエラーやミスによる失点を取り戻そうとする心理が働き、不必要に力んでしまうからです。エラーやミスを すると、それは瞬時に過去の出来事になります。論理的にかんがえれば、過去を変えることはできませんから、エラーやミスを「取り戻す=起こらなかったことと同じ状態にする」ことはできません。さらにまずいことに、良いことが起きた時に得した気分よりも、人間はまずいことをして落ち込んだ気分の方を過大に評価します。ですから、傷口の大きさを実態よりも大きく見積もって、それを取り返そうと、実力以上の力を発揮しようとします。実力以上の力を発揮しようとしたら、余分な力が入ってしまい、さらに傷口を広げてしまいます。試合中に、エラーやミスをしたら、それを脇に置いて、勝つために、次にやるべきことに集中することが、メンタル上の対処方法です。ここまでは個人スポーツとチームスポーツに共通する対処方法ですが、チームスポーツでは、さらなる心理的な手当が必要になります。それはチームワークとの整合性をとることです。

 チームワークができあがってきますと、選手同士の連帯感が強くなります。連帯感にも副作用があります。チームメートがエラーをすると、同僚の選手たちは「彼の失敗をとりもどさなければならない」と思って、100%以上の力を出そうとします。その結果、投手は力んで投げたり、デッドボールを投げ、野手はエラーをしてピンチを招きます。つまり、チームワークの良さが、エラーを伝染させるのです。このことは航空網やインターネットで緊密に結びついた今日の世界に似ています。遠くの国で起きたことの影響がすぐに及んでくる現象と同じです。

 スポーツでも、ビジネスでも、失敗をしたら、失敗からくる損害を取り戻そうとするよりも、損害を横に置いておき、ゼロベースで次のプレーに集中すれば、エラーやミスの連鎖を防止できる可能性が大きくなります。起こしてしまったエラーやミスは過去の出来事です。私たちは過去と他人を変えることはできません。