2009/10/30

終わりよければすべてよし (3)

【3:1の法則をビジネスで活用する―個人編(5)】
参考文献:
 Barbara L. Fredrickson “Positivity” CROWN
 Barbara L. Fredrickson & Marcial F. Losada “ Positive Affect and the Complex Dynamics of Human Flourishing”
 Carroll E. Izard “The Psychology of Emotions”

 学習性無力感(電気ショックを与えられ、それから逃れる方法がまったくない状態に置かれた犬は、最後には無気力になって電気ショックを与えられてもじっとしているという実験結果をもとに、無力感は学習されるものであるとする学説)を提唱した心理学者のセリグマンは、the opponent-process theory(この理論は心理学者のリチャード・ソロモンの研究で有名になりました)をつかって、学習性無力感を説明しました。自分にとって有害な出来事や不利な出来事が突然起きると、人間はおそれを抱いたり、ひどいときにはパニックに陥ります。そのような出来事が繰り返されると(犬を使った実験では電気ショックがそれにあたります)、人間は次第に、おそれを抱いても無駄であることを学習します。その結果、無力感を感じ、抑うつ状態に陥りますが、この抑うつ状態はおそれを打ち消す働きをしているというのが、セリグマンの考えです。(注)

 The opponent-process theoryでリチャード・ソロモンは、情動はペアになっていて、双方がその働きを打ち消し合う作用をすると研究発表をしました。ソロモンの学説を引き継いで、セリグマンはおそれとペアになっているのは抑うつであり、抑うつはおそれを打ち消す働きがあると考えたのです。ビジネスの現場でいえば、上司に叱られると、昇進ができないとか、違う部署に異動させられるかもしれないと不安になります。不安はおそれが主体となった情動ですから、おそれを打ち消すために、気落ちをしたり、気持ちが暗くなります。したがって嫌なことが起きると、気持ちが沈むのは、自然なこころの機能です。前回にも述べましたが、抑うつはおそれが消えても残りますので、1日の終わりに、ネガティブな情動が残ってしまい、3:1の法則を守ることが難しくなります。そのようなとき、身体を動かすことをおすすめします。

 抑うつ状態になりますと、交感神経の働きが悪くなります。交感神経はノルアドレナリンなどの戦うための神経伝達物質を出す働きをしています。(うつ病の人ではノルアドレナリン、ドーパミンなど交感神経系から出される物質が脳内で少なくなる現象がみられます)運動をしますと身体が戦闘態勢に入り、交感神経が活性化して、抑うつ状態が解消されます。(脳内物質の視点からいえば、うつ病と反対の状態を運動によってつくりだされます)ベッドまで持ち越しそうなくらい嫌な出来事が起きたら、仕事が終わったあと、身体を動かすことは理にかなった対処方法です。



 注:Carroll E. Izard “The Psychology of Emotions” p215