2012/8/24ロンドン・オリンピックをメンタルコーチの視点から考える(2)


 今回のオリンピックで、ボルトと並んで興味があったアスリートは、ハンマー投げの室伏広治選手です。オリンピック前から、彼のトレーニングの様子をテレビでしばしば紹介されていましたが、インナーマッスルや体幹筋肉のバランスを重視するなど、現代科学の粋を活かしたトレーニング方法に感心しました。スケート連盟で仕事をしている関係で、ほかの競技団体のトレーニング情報に接する機会が多いです。今回のオリンピックを前にして、科学的な知見を十二分に取り入れてトレーニングを積み重ねた競技団体は、総じてメダル数を多かったという印象を持っています。その中でも、室伏選手のトレーニング方法はとくにすぐれていると思いましたし、彼自身を実験材料にして、「年齢の壁をトレーニングによって突き破れるか」というテーマに取り組む、研究者としての姿勢に敬意を抱きました。結果は銅メダルでしたので、彼の試みは成功したと言えます。今回のチャレンジについて室伏選手は本を書くと思いますので、その出版が待ち遠しいです。

 アスリートの選手寿命は、20年前に比べて、長くなったと感じている人は多いのではないでしょうか。そもそも選手寿命というものは、従来は、とても大雑把なものだったと思います。30歳になると、個人差はまったく無視されて、本人も、周囲も、引退が近いという雰囲気を漂わせていました。しかし、運動生理学、スポーツ医学などのスポーツ関連の科学の急速な進歩によって、選手寿命神話は崩れつつあります。このことは、スポーツ界のみならず、ビジネスパーソンにも影響があります。

 ビジネスパーソンはアスリート以上に「老成」してはいけない職業と私は考えています。理由は、技術やビジネスモデルの変化が激しく、大きな成功を収めても安住できないからです。「ああ、俺も(私も)年老いたな」と感じることがないように常に注意する必要があります。「年老いた」という感じは、身体的な感覚が来ることが多いです。身体能力が衰えないと、「年老いた」実感をする体験は減りますので、「老成」への歯止めになります。回りくどい説明になりましたが、室伏選手の成功は、ビジネス界に生きる人たちにとっての朗報なのです。適切なトレーニングを積むことで、肉体的な老化をある程度食い止めることができれば、若い時に持っているチャレンジ精神を失うことなく、ビジネスパーソン寿命を延ばせます。室伏選手のトレーニングに、赤ちゃんの動きの再現が組み込まれていたことは、とても象徴的です。ストレスで打ちのめされそうになれば、私たちは一度赤ちゃんのような身体とこころを取り戻すことは必要だと思います。