2011/6/1
こころの病と進化(1)
【組織の多様性のすすめ その1】
参考文献:
Szabolcs Keri“Solitary Minds and Social Capital: Latent Inhibition, General Intellectual Functions and Social Network SizePredict Creative Achievements”
Barbara Isanski Mad Genius: Study Suggests Link Between Psychosis and Creativity
春先から、花粉症に苦しみ人が増えますが、花粉症はヒトの免疫反応の一つだという事実は良く知られています。免疫反応は、ヒトを病原菌から守ってくれる重要な働きを持っていますので、私たちにとってなくてはならないものです。私たちの身体を守る必須の防御手段が、どこかでおかしくなって私たちを苦しめる病気の原因になっています。
私の家系は、痛風の名門というありがたくない評判をもらっています。その名前にふさわしく、私の親戚はずらりと痛風患者が並んできます。痛風の痛みはものすごいものです。池波正太郎の「鬼平犯科帳」に、「いそぎばたらき」という残虐な手口で江戸の善良な人を殺した犯人が、重い石を膝の上に乗せられる拷問が登場します。痛風は「石を抱かせられた」のと同じくらいの痛みだと私は想像しています。(私は石を膝に置かれた経験はありませんが)「身体にたまった尿酸が結晶となって身体の外に排出されるときに、ものすごい痛みと熱を引き起こす。だから発作を起こしているときは、むしろ身体の正常な排出反応だ。問題は発作を起こさないときだ。高濃度の尿酸が血管や内臓にダメージを与えていて、それを放置しておくと、腎臓や脳に悪い影響を与えていて、最後は命取りになる」とお医者さんに言われて、驚いたことがあります。私は猛烈な痛みに襲われているときが病気で、痛みがないときは健康体だと思っていたからです。身体を守る機能が、ものすごい痛みを誘発している現象と、花粉症には、共通したものがあります。
私はカウンセラーとして、うつ病などのこころの病に苦しむクライアントと接する機会がありますが、そのときにこころの病も本来はヒトにとって大切な役割を果たしてきた働きがどこかでおかしくなった症状ではないかと疑っています。必要なものでないと進化のプロセスで、消え去っているはずです。生物学で一番有名な例は鎌状赤血球症です。この病気は遺伝子によって引き起こされます。生まれつきこの赤血球をもったヒトは、貧血に苦しみ、ひどいときは死に至ります。しかし、この赤血球はマラリア病原虫の増殖を抑える働きがあり、アフリカなどのマラリアが蔓延している地域では、この遺伝子を持っているヒトのほうが生存には有利になります。その結果、鎌状赤血球を作り出す遺伝子を持つヒトは、マラリアが広がっている地域にたくさんいます。統合失調症やうつなどのこころの病も、ヒトの進化に、どこかで役だっているから、現在もたくさんの人が苦しんでいるのではないでしょうか。次回は、統合失調症が、人間の進化に、貢献してきたという仮説をご紹介します。