2013/3/18勝つための組織づくり(2)


 勝つための組織をつくるには、コミュニケーションの質と量を改善する必要があることを前回述べました。質に関しては、現実を正確に組織メンバーが把握するために、「正直」なコミュニケーションにこだわることを提唱しました。
次にこだわっていただきたいのが、率直さです。私は、企業の会議で、何度も不思議な体験をしたことがあります。会議が終わった後、「あの決定はおかしいよ」とか、「会議の席上では言える雰囲気じゃなかったから、だまっていたけれど・・」などと言う人に出会ったことです。なぜ会議のあとで、ぶつぶつ言うのだろう?と私は首をかしげていました。そういう人の心理をまったくわからない訳ではありません。私は若いころ、大企業の下請け会社を経営していたことがあります。親会社の主催する会議で、「正直に、率直に意見を言った」ために、親会社の課長ににらまれて、その業界を追い出されました。あまりにも、政治的な企業風土では、「正直に、率直に」発言すると、発言者のポジションが危機にさらされることは現にあると思います。しかし、目の前におかしなことが横行しているにもかかわらず、見て見ぬふりをすれば、いずれビジネスが立ち行かなくなり、もっと大きな危機に見舞われることになります。
率直に、というのは何も批判ばかりすることではありません。これも私の個人的体験ですが、批判ばかりする人は、評論家的な傾向があります。言う事は正論なのだけれど、発言しているご本人が責任をもって改革にあたらないために、だんだんと周囲の人が、冷めた目でその人の言動をながめるようになります。
率直さとは、言うべきときに意見を言うことや、表わすべき感情を表情や身ぶりで表現することは当然ですが、ほめるべきことはほめ、叱るべきときは叱ることも含まれていると考えています。「言うべき」「表わすべき」など「~べき」を連発しましたが、この「べき」の見定めが難しいです。どうすれば見定めができるようになるでしょうか?とくにビジネス経験が少ない若い人は、「一体いつ言うべきなのだろうか」と躊躇しているうちに、発言すべきタイミングを逃すことが多いでしょう。社会的スキルを習得する原則は実際の場で使ってみることです。少し不安があっても、とりあえず発言することをおすすめします。ときには発言すべきときではなく、ばつの悪い思いをするかもしれませんが、発言しているうちに、だんだんと、周囲の状況を見定めることができるになるものです。
一方、経営トップの役割は、部下たちの発言の安全性を保証し、「何を言っても大丈夫な組織をつくる」ことを目指すべきです。「もの言えば、唇寒し、秋の風」状態が続いていては、勝つための組織づくりは難しいです。言論の自由を禁じられた国が、ある日突然、崩壊したり、内戦に突入するのとおなじような現象が、企業でも起きます。私は企業のコーチング(スポーツチームでもまったく同じですが)では、上司の意見に対する部下や選手の反論権を認めてもらったうえで、コーチングを開始します。経営トップが部下たちの反論権を公認したとたん、企業の風土がオープンな方向に変わり始めます。もちろん、それだけで、「なんでも言いあえる自由な組織」がすぐに実現できるほど、現実は甘くありませんが、一歩だけ前進することができます。勝つための組織づくりは、一歩一歩粘り強い前進が原則です。