2012/5/24「ホメ渡部 ホメる技術7」について(1)


 プレジデント社から「ホメ渡部 ホメる技術7」が出版されました。私はこの本の監修をしています。たいへん楽しい仕事でした。何が一番楽しかったといえば、著者の渡部建さんの仕事に対する誠実な姿勢に感動することが多かったことです。渡部建さんは、テレビ朝日「お願い!ランキング」で、いろいろな会社を訪問し、その会社の製品をホメるのですが、ホメ方が実にうまい!しかし口先だけのヨイショではなく、訪問する会社の歴史や、商品について徹底的に事前学習をして、相手がホメてほしいところをしっかりとホメています。この事前学習がすばらしいです。社史に至るまで読みこんでいるのにはびっくりしました。「ホメ渡部」の仕事をしてから、私は初めて訪問する会社の商品やサービスはもちろん、その会社の歴史もできる限り調べるようにしています。

相手が感動するまで、ホメようとすれば、とことん相手のよいところを理解しなければなりません。渡部さんのホメ方は、番組の成否がかかっていることもあって、鬼気迫るものがあるくらい、よく練れています。「こういう風にこの商品を観れば、この商品のよいところが見つかるのだ」と何度も感心させられました。

 心理学の有名な実験で、被験者に最初に台所の絵を見せ、そのあと、郵便ポストとパンの絵を見せると、パンのほうをより速く認識することが示されています。(Palmer, 1975)。心理学の本にはよく書かれていることですが、ホメようとして観察しないと、ホメるところがみつからないのは、このこころの仕組みがあるからです。よいところを探そうと思えば、観察するまえに、「よいところを探すのだ」というこころの枠組みをつくっておく必要があります。渡部建さんも、番組ではホメることが要求されていますので、ホメる会社のホメるべきところを探そうという気になっています。だから、自然とホメるところに目がいき、ホメ方にさらに磨きがかかるのだと思います。

 私は研修講師の仕事もしています。クライエントからのフィードバックがとても重要です。フィードバックの一つに、受講者のアンケートがあります。アンケートのなかでも、一番重視するものが、建設的な提言が書かれているものです。ほめていただくことはありがたいのですが、ほめていただくだけだと、講師として成長しません。ほめていただきながら、ピリッとした味わいのあるコメントがあると、とてもよい勉強になります。ホメ方には香辛料をきかせることが必要で、渡部建さんはその呼吸が絶妙です。

 反対に気持が暗くなるのが、何もコメントがなく、点数だけが低いアンケートです。何人かの講師と共同で研修をする機会があります。受講者によって点数の甘辛傾向が出ます。大部分の受講生は、甘辛のどちらかにわずかに偏りはあるものの、おおむね中立的で、コメントも信頼できます。しかし、極端なくらい、どの講師にもよい評価をつける人と、どの講師にも辛い点をつける人がデーターの両端にいます。どの講師にも悪い評価をつける人は、研修中にも積極的に参加せず、評論家的言動が目立つことと、暗い感じの人が多いです。おそらく、すべての物事に批判的な方だと思います。普段の仕事や生活でも、「あらさがしの目」で観ていますので、ほめることができないのでしょう。

 これまでのカウンセラーの経験からすると、他人を批判的に観る人は、自分のことを好きでない人が多いように思えます。表面的な言動では、自分のことを高く評価しているように見えるのですが、よくお話を聴くと、自分に自信がもてなかったり、自分のもろさを必死で隠している人が多いです。「どうも自分は他人を批判的に観る傾向がある」と感じた時は、自分を振り返っていただいたほうがよいでしょう。批判的な人は、せっかく研修を受けても、あまり得るところがなく、余計、研修に批判的になるのかもしれません。

 甘い点数をつける人は、無責任な傾向があり、ホメ方も相手のこころに響かない、うわっつらなものになりがちです。これも要注意です。