2012/1/26

ハーバード大学メディカルスクールのコーチ・カンファレンス報告(3)


 <Robert Brooksの講演>

 Robert Brooks博士は、ハーバード大学のメディカル・スクールで研究をする心理学者です。”The Power of Mindset”というテーマで、たいへんわかりやすく、マインドセットとレジリエンス(回復力または復帰力)の関係を説明しました。このテーマについて深く理解している研究者だと思いました。

 最近、学会やセミナーでしばしば講師が口にする言葉の一つにマインドセットがあります。ブルックス博士はマインドセットを、「私たちが自分自身や他人に対して抱いている仮説と期待のことで、私たちの行動の指針となるもの」と定義しています。人生の達人(Julius Segal博士がcharismatic adultと提唱した人のこと)は、レジリエンスを強めるマインドセットを持っています。私たちは人生の達人と同じマインドセットを持てるように成長することが大切だ、というのがブルックス博士の根本的な考え方だと思いました。ポジティブ心理学の一方の旗頭のキャロル・ドゥエック博士の「しなやかなマインドセット、こちこちのマインドセット」と同じような考え方です。

 たとえば、あなたが仕事で大きな失敗をしたとき、「私はこれでおしまい」という仮説をとるのか、「失敗から何を学べるはずだ」という仮説をとるのかによって、失敗からの回復力は変わってきます。それではなぜ、ブルックス博士やドゥエック博士のように、「マインドセット」とわざわざわかりにくい言葉を使っているのでしょうか?「考え」や「考え方」でよいのではないでしょうか。ここからは私の推測です。仕事で失敗して落ち込んでいる人をコーチングするときがよくあります。そのなかでなかなか失敗から立ち直れない人もいます。彼ら(彼女たち)は、「失敗はこれからの人生の糧にせよという考え方はわかるのですが・・」と口をそろえて言います。失敗したらおしまいと思わず、それをばねにして奮起することが正しいことは、頭では理解しているのですが、こころも、身体も違う方向にむかってしまいます。このような人は、「私はこれでおしまい」的な仮説に支配されていて、「失敗から何か学べるはずだ」という仮説をこころから信じていません。昔、「わかっちゃいるけど、やめられない」という歌が流行したことがありますが、まさしくこの状態は、わかることとマインドセットは別物であることを表しています。「行動の指針になり、行動に結び付く、仮説または期待」と定義の一部を書き換えたほうがよいかもしれません。マインドセットは単なる考えではなく、これまでの人生経験に裏打ちされ、腹落ちした心構えのことだと思います。レジリエンスが高まるような人生経験の積み重ね方があるのかもしれません。