2012/10/31「『感じが悪い人』はなぜ感じが悪いのか?」について(2)


 「『感じが悪い人』はなぜ感じが悪いのか?」を書く、直接的なきっかけは、本にも書きましたが、私が勤務していた会社が、金融機関にのっとられ、そこから送り込まれた役員が、恐喝的な言動をしたことでした。(悪家老というニックネームで登場する人です)ビジネスパーソンにあるまじき、暴力団まがいの言動で、私はびっくり仰天しました。たまたま、その役員が以前に勤務していた会社に私の知人が働いていました。知人に先入観を与えてはいけないと思い、恐喝めいた話を一切せずに、「~さんをご存知ですか」と聞いてみました。知人の答えは意外なものでした。「よく知っている。頭がよくって、いい奴だ。紹介するから、一度、一緒に食事をしようよ」。知人は信頼できる人で、本心からそう言っていることは間違いありません。私は、「!?・・・?」という感じになりました。私は心理学の研究者であるにもかかわらず、「感じの悪さ」は、常にどんな場面でも、どんな人に対しても発揮されるもので、悪家老は、どんなときも悪家老と思い込んでいたのです。

 「感じの悪さ」を仮に性格から生まれると考えてみましょう。私たちは、ある性格は、ある行動と結びついていると考えがちです。たとえば、「おとなしい」という性格の持主は、集団のなかでは、おだやかで、波風をたてない行動をとる人だと考えます。採用時に使われる性格検査で、外向的な人は、社交的で、営業に適性があると判断されることが多いです。しかし、社会心理学の研究知見に基づけば、性格から行動を予測できるとは限らないとされています。

 1920年代のアメリカですでに、性格と行動はあまり関係がない、という研究がHartshorneとMayという2人の学者によってされています。たくさんの子どもがこの実験に参加しました。子どもたちは、嘘をつくとか盗みをするなど、悪いことできる機会が与えられました。いろいろな性格の子どもが実験に参加しているので、もし性格と行動に関係があるならば、その結果はさまざまなはずです。ところが、ある状況下では大部分の子どもが、ほぼ一様に悪いことをして、ある状況下では悪いことをしないという実験結果がでました。つまり、子どもが悪いことをするのか、しないのかは、子どもの性格や属性と関係がなく、おかれた状況によるとされたのです。(注)

 私自身は、どのような性格検査を受けても、犯罪的性格と判定されないという自信はありますが、過去にたくさんのうそをつきました。ユングの性格タイプで分類するならば、私は内向感情直観タイプです。この種のタイプは、ユング心理学では、物静かで、人の感情に配慮する傾向があるとされていますが、私は過去にたくさんの人と喧嘩してきましたし、他人の感情を踏みにじったことも数えきれないくらいあります。行動は性格よりも、社会的なコンテクストにより強く影響されるという意見に私も賛成です。「それじゃ、性格とは何なのか?」という問題に突き当たりますが、あまりにもテーマが大きすぎますので、ここではこれくらいで留めておきます。

 「感じの悪さ」も、社会的コンテクストによって影響される、と私は考えました。笑顔を例にとって説明しましょう。結婚披露宴に招待され、その席であなたはできるだけ笑顔で隣の人と話をしようとするでしょう。しかめっ面をして話をするよりも、はるかに感じがよいと私たちは考えているからです。しかし、同じ笑顔でも、喧嘩をしている最中だと、凄みや、脅迫めいた表情に変わってしまいます。そういうときの笑顔は、感じのよさには程遠く、感じの悪さを相手に感じさせることすらあります。人間社会で、もっとも感じのよい印象を与えると信じられている笑顔でさえ、あてにはならないのです。

注:”Advances in cognitive –social personality theory: Applications to sport psychology” Ronald E. Smith p254