2008/11/19

モチベーション(4)

  ある行動が効果的か、効果的でないかという問題を扱うと、モチベーションを考えるだけでは済まなくなります。モチベーションは人間の行動や思考の方向付けを与える起動力です。何度も繰り返すように、モチベーションが働いて、人間はすばやく行動をしたり、行動を抑制したりします。しかし、行動そのものが効果的かどうかは別問題です。ビジネスの現場で、私たちはさまざまな活動をしています。それぞれの活動には目標があり、目標の達成度合や、目標までにどんな努力をしたかなどで評価されます。ビジネス心理学では、モチベーションを効果と評価に関連付けながら考察すべきでしょう。やる気があるかどうかよりも、効果的かどうかのほうが経営者にとって関心があるはずです。

 効果を考えるとき、たいへん難しい問題にぶつかります。旅をするとき、まっすぐ目的地に向かう道と回り道があり、どちらの道を旅したときのほうが楽しいかを一概に決めることはできません。人間の行動や思考にも同じ問題があります。世界恐慌とも呼べる今日、外国の会社を買収する決断と、買収しない決断で、どちらが効果的あるかどうかは、かなりあとになってわかります。モチベーションが起きた時点では、効果があるかどうかはあくまで推測にしかすぎません。それにもかかわらずビジネスパーソンはすばやく決断しなければなりません。モチベーションと効果と連動させるためにどうすればよいのでしょうか。 行動Aが効果的であるためのビジネスの原則を見つけ出せば、ある状況のもとでAという行動を起こすと、成功する確率が高いのか、低いのかを正しく予測することができるようになるでしょう。過去の先例をよく研究し、そこから原則を見つけ出し、戦略を立てることを提唱したのは、アメリカのアルフレッド・T・マハンです。マハンは19世紀に活躍した海軍軍人です。彼の不朽の名著「マハン海上権力史論」で次のように述べています。

 「原則は物事の本質に基づいている。条件の変化に伴ってその適用がいかに変わろうとも、成功するためには、原則が、従わなければならない基準であることは変わりない。戦争にはこのような原則がある。原則が存在することは過去の歴史を研究することにより見つけることができる。過去の歴史を研究すれば、成功と失敗の中に原則が見出される」(注)マハンの考えに従えば、ビジネスパーソンは、自分のビジネス体験だけでなく、ビジネスの盛衰の歴史的な研究、それが大げさであれば自分のビジネス体験を振り返り、自分なりの原則を創っておくことが必要でしょう。原則に照らし合わせ、行動促進か、行動抑制かをきめ、起動力に火をつけます。その活動の結果が出た段階で、ビジネスの原則にまちがいがないかを検証し、原則を強化改善し、次の活動のときを待つことがベストではないでしょうか。


注:アルフレッド・T・マハン「マハン海上権力史論」北村謙一訳 原書房 p15 日露戦争で海軍の作戦を立案実行した秋山真之はマハンの影響を受けたことは有名です。そのことが司馬遼太郎「坂の上の雲」で描かれています。