2011/9/22

創造性開発の難しさ(3)

 みんなでいっしょに考えたほうがむいているテーマはどのようなテーマでしょうか。私は以前、コールセンターの会社で働いていました。そのときの体験からいえば、コールセンターの現場の運営をもっと効率的にしたいとか、苦情を少なくするにはどうすればよいのか、というテーマは、現場体験に豊かなコミュニケーター(電話の受発信をする人のこと)に集まってもらい、みんなでアイディアを出しあったほうが、創造的で、効用の高い解決方法が生まれました。おそらく一人の人間が四苦八苦して考え出した処方箋は、独りよがりなところが多く、現場ではあまり使えないものが多くなると思います。反対に、本を書くような場合は、一人で静かに考えたほうがよいものが書けました。私は、みんなが知恵を出し合って何かを創造することにむいているテーマの条件を以下のように考えています。

1. テーマに関する情報が分散していて、一人の人間では、必要な情報をキャッチすることが難しい(コールセンターの苦情が良い例です。一人一人のコミュニケーターが、それぞれにさまざまな苦情に対処しています。)

2. さまざまな現象から、共通する法則や対処原則を考え出すような、帰納法的な思考を必要とするテーマ(根本的な法則や原則が確立されていて、そこから現象を解明するような演繹法的な思考を必要とするテーマは、一人の人間がじっくり考えるほうがよいと思います)

3. 利用する人が広範囲にわたる商品やサービスを開発する場合。言いかえれば、テーマの対象が、年齢、社会階層、人種、文化などが異なる人々が利用するもの(政治が一番良い例です。独裁政治は一見効率的に見えますが、特定の人たちが利益を得る仕組みが生まれやすく、結果的には革命や政治的混乱によって、非効率になります。また、特別な美意識を必要としないような洗剤や旅行バッグのような開発はアイディアを出し合ったほうがよいと思います)

4. 一人の人間が判断し、その偏見が致命的な結果を生み出すリスクがあるもの(裁判や工場の品質管理の仕組みづくりなどが好例です)

5. 複数の人間による観察が不可欠なテーマ(KJ法という優れた集団的な思考法を創造した川喜多二郎は、文化人類学者でした。文化人類学は、複数の人間による、さまざまな視点からの観察が不可欠な学問の一つです。マーケティングの多くの分野では、複眼的な観察が不可欠です)

5つの条件を統合すると、テーマについて考える材料である情報が分散し、テーマの対象となっている人々も分散している場合は、いろんな人たちがアイディアを出し合ったほうがよいでしょう。次に、情報の分散度、対象となる人の分散度の2点から、一人でじっくり考えたほうがよいテーマについてかんがえてみましょう。